千の風 第8話
今でも夢に見る
私とがいて
狂も京四郎もいて
みんなで笑い合って過ごした日々のことを
でも
いつからなのかな
いつのまにか亀裂が入って
いつのまにかみんなバラバラになってしまった
それでも
もう一度あのころに戻りたいと思うのは
いけないことですか?
千 の 風
選ばれし者のみが足を踏み入れることができる死の森
磁石盤も役に立たず
一度入り込んだら最後
二度と出てこられない場所
それが悪魔の棲み処
青木ヶ原の樹海
その森をは狂と二人で歩いていた
「…狂があんなこと言うからこんなことになったんだよ?」
「……」
「樹海はただでさえ危険なのに…アキラや十二神将もいるから連れていけないって
素直に言えばこんなことにはならなかったのにさ…」
「…いい加減黙んねぇと…」
「はい、ごめんなさい、言い過ぎました!」
何故私が狂と一緒にいるのか
それは樹海に入る前の狂とゆやの口論から始まった
ここに残れと言う狂とついていくと聞かないゆや
狂の言葉に怒ったゆやは一人で樹海入ってしまった
それにいち早く気付いた私は狂を無理矢理連れて今こうして森の中にいるのだ
「ゆやってば何処まで行ったんだろ…早矢、分かる?」
は肩に止まっている早矢に話しかける
『…ゆやって子の気配は確かに感じるけど、樹海の住人の気配が混じってよく分からない』
「樹海の住人…マズイね、ゆや、大丈夫かな…無事だといいんだけど…」
「あの女ならそう簡単に死なねぇだろ」
「事の始まりは狂がいけないんでしょ!?」
自分が原因でこんなことになったのに
この男の余裕さは何!?
ああ
頭が痛い…
『…そうそうゆやさん…私ね…「背中に傷のある男」知ってますよ…
もっともこのことは…狂も
も知ってることですけどね』
私の頭に数日前にアキラが言ったことがよみがえる
最初何のことだかか分からなかった
ゆやに直接聞いてみたら
自分の兄を殺した相手を探しているということを聞いた
そして
その男の背中に
十字のキズがあることも
「…ねえ、狂…」
は前を歩いている狂に話しかけた
「あぁ?」
「ゆやが言ってた『背中にキズのある男』ってさ…」
その言葉に狂は僅かに反応する
「…それがどうした?」
「ゆやのお兄さんを殺した男の背中に十字のキズがあったんでしょ…?それってまさか…」
そこまで言うと
いつのまにか狂が私の目の前にいた
「…どうする?」
「え…?」
「もし…あの女の敵がオレか京四郎のどっちかだったらお前…どうする?」
紅い眼と目が合う
瞳が微かに 揺れた
「オレじゃないって言ったらお前は信じるか?千人斬った男の言葉を」
『千人斬りの鬼眼の狂』の異名をもってる狂
もしかしたら
その千人の中に
ゆやのお兄さんが含まれているかもしれない
それでも…
「信じるよ、私は狂を信じる」
は狂を漆黒の瞳で見つめ返した
信じるよ
例え
何があっても
あなたを
あなたたちを
信じる
「……」
「何度も言わせないでよ、私は狂を誰よりも信じてるって言ったでしょう?
忘れちゃったの?それとも何?もうボケが始まった?」
「…てめぇはよっぽど口を塞がれてぇらしいな」
狂は青筋を浮かべながらの顎をくいっと持ち上げた
「ごめんなさい冗談が過ぎましただから手を放して下さい!」」
「まさかアキラは良くてこの俺様は駄目ってことはねぇよなぁ?」
「あ、あれはアキラが無理矢理…!」
の顔が赤くなる
アキラとのキス
忘れたくても忘れられない
だって
まだ唇の感触が残ってる
真っ赤になったを見て狂は眉間に皺を寄せた
…おもしろくねぇ
狂はそのまま無言でに顔を近付ける
「ちょっと狂…!」
「いいから黙ってろ」
抵抗しようとするを紅い眼で黙らせる
はぎゅっと目っを瞑った
唇に狂の息を感じる
ガツン
『いいムードのところ悪いけど、ゆやって子、樹海の住人と会っちゃったみたいだよ』
あと少しで唇が触れあうとき
早矢が嘴で狂の頭をがつんと突いた
「え!?大変じゃない!早くゆやを見つけなくちゃ!ほらっ!狂!!何頭から血を流してるの!」
狂の手がゆるみ
自由になったは走りだした
それを確認した早矢はすっと狂の前に舞い降りる
『残念だったね?」
「この鳥…!!丸焼きにして食うぞ!?」
『だってと約束したんだもの』
「ああ!?」
『早矢、に手を出そうとするヤツがいたら、取りあえず潰せ?』
思い出しただけでも寒気が出る
あの
綺麗に微笑んだの笑顔に
笑っているけれど
目が笑っていない
良い意味で妹思い
悪い意味で過保護
「…上等じゃねぇか」
狂の紅い瞳がギラッと輝いた
『頑張ってね…』
長い廊下を時人は歩いていた
の様子を伝えるために時人はある場所にやってきた
壬生とはまた違った雰囲気
どこか不思議で
どこか安心する空気をこの家は持っていた
時人は一つの部屋の前で止まる
何で大四老であるこの僕がこんなことしなくちゃいけないのさ…!
不機嫌さを露にしながら時人は思いっきり障子を開けた
「今戻っ「あははははは!!!」
開けたと同時に聞こえた大きな笑い声
よく見てみれば黒い髪の少年が目に涙を浮かべ お腹を抱えて大笑いをしている
その光景に唖然とする時人
「くくく…!!いつも俺は最強だ〜!!って言い張ってる男が、と…鳥に頭突かれてやんの!!
みっともないったらありゃしねぇ〜!!」
「………」
そのまま笑い続けて数分
少年は障子を開けたまま固まっている時人にやっと気付く
「あ、あれ?時人?来てたのか?」
目に涙をまだ浮かべたまま少年は顔を上げた
肩まである黒い髪を一つに結び
漆黒の瞳を持つ少年
男とも見えるし女とも見えるような中性的な顔だち
そして顔はと酷似していた
名前は
の血をわけた双子の兄である
「…何でそんなに笑ってたの?」
「いや…知り合いが鳥に突かれる夢を見ただけだ、たいしたことはない」
「たいしたことあると思うんだけど」
「まあまあ…で?の様子はどうだった?」
ようやく笑いが治まったのか は時人に尋ねる
「…別に変わった様子はなかったよ、ただ…―」
「ただ?」
時人はピラッと一枚のカードをに見せた
「自分の兄を犠牲にしてまで外に出たかったの?って聞いたら顔色が変わったけどね」
時人が見せたカード
それは『吊るされた男』
「は知らないんでしょ?今がどういう状況になってるかってこと、
僕はてっきり吹雪さんがもう言ってあるものだと思ってた」
「まあこの条件を呑む変わりにには知らせるなって言ったからな」
「でもその割には呑気だよね、今の自分の状況分かってるの?」
「十分分かってるよ、別に今慌てても状況が変わるわけじゃないだろ」
「…本当に妹思いだよね、を自由にする代わりに…」
瞳を僅かに細めながら
時人はすっとの体を指す
「いつ死んでもおかしくない体にしちゃったんだから」
その時人の言葉には溜め息をつく
「仕方ないだろ?こうでもしなきゃ吹雪は承知してくれないだろうし、
それに死ぬって言ったって壬生の土地から出なければ大丈夫さ」
「それでが納得すればね…」
時人がカードで口元を隠し 妖艶に笑う
「もし真実を知ったら…は実の兄と鬼の子のどちらを選ぶのかな?」
「…兄としては狂の側にいてほしいな」
「…何で?」
「には壬生という鎖に縛れれずに、自由に生きて欲しいから例えそれが許されないことだとしても」
の瞳から 決意の色が伺えた
犠牲になるのは
俺だけでいい
せめてお前だけは
自由になって
倖せになって欲しい
「……?」
『どうしたの?』
「何か…の声がした気がして」
気のせい?
は一人で樹海を歩いていた
先程まで狂と一緒だったが二手に別れた
今はゆやを助けることが先決だから
たぶん
まだ信長は動き出さない
躯がある地下氷城の場所がはっきりと分からないと思うから
『…自分の兄を犠牲にしてまでも?』
ふと時人の言葉を思い出す
一体どういう意味なのだろう
犠牲にする?
私がここにいることでに何か起こっているの?
それともあの髪の毛モッサリ男が関係してる…!?
もしそうだったら髪の毛を斬るだけじゃすまないね
「…、大丈夫かな」
がぼそっと呟やく
『なら上手くやってるでしょ、要領いいから、と違って』
「何気に貶されているのは私の気のせいですか?」
ドォォォォン
突然樹海に大きな音が響き渡る
「な、何この音!?」
『どうやら鬼眼のようだね…でも…この気配…」
「!!」
狂の気じゃない
この澄みきった気の気配
これは
こ の 気 配 は
「…京四郎!!」
は走り出した
ねえ京四郎
聞きたいことがたくさんあるの
狂のこと
ゆやのお兄さんのこと
いろいろ聞きたい
そう
あなたと話したいの
あなたに
会いたいの
「さん!!」
ゆやの声が聞こえて立ち止まる
「ゆや!!無事だったのね!」
「私は大丈夫です!!でも…狂が…」
ゆやは視線を下にずらす
すると
木の根元で横たわっている狂の姿が見えた
「狂!?」
は狂の側に走り寄った
体に耳を寄せると
トクン トクン と心臓の音が聞こえた
良かった…
生きてる
「一体何があったの?」
「十二神将のクビラと闘ったんです、そしたら制限時間の十分を過ぎてしまって…」
クビラ?
十二神将の一人か
「…でもあの気は…京四郎だよね?」
「もう駄目かと思ったときに狂の気が変わったんです
すごく澄みきった気に…やっぱり京四郎でしょうか…?」
「……」
は少し考えた後
手を開いてゆやの顔の前に向ける
「さん…?」
「ごめんね、ゆや、ちょっとの間眠っていてくれる?」
その言葉が合図だったかのようにゆやはがくっと倒れ
次の瞬間には寝息をたてていた
『賢明な判断だね』
早矢がぼそっと呟やく
はそっと狂に近付き その手を握った
「京四郎…私…だよ、聞こえる?」
すると狂の眼がゆっくりと開いた
しかし
そこにあるのは紅い眼ではなく
黒い瞳
「…?」
「きょう…しろっ…!」
の瞳から大粒の涙が溢れ出した
久しぶりに聞くあなたの優しい声だったから
「久しぶりだね…」
京四郎は泣いているの手をぎゅっと握りしめた
「心配、させちゃったかな…?」
「当たり前でしょう…!?何で…何でこんなこと…!!」
あんなに仲がよかったのに
どうして?
一体
あなたたちに
何があったの?
「今は…まだ言えない…でも…」
京四郎は繋いでいないもう一つの手での頬に触れた
「いつか全てを話すから…それまで僕のこと…信じてくれる?」
黒い瞳が を見つめる
「…うん…信じるよ…」
自分の手を 京四郎の手に重ねる
「私…京四郎も狂も信じてるから」
二人を信じてるからこそ
願わずにはいられない
「…ありがとう」
京四郎はふっと笑い
そして
眼を閉じた
「京四郎…?」
呼び掛けても
京四郎がもう答えることはなかった
いつか消えてしまう
そんな予感をさせるように
悲しい眼で笑ったあなた
信じてと言わなくても
私はあなたを信じているよ
あなたたちを信じているよ
二人とも大好きだから
だからこそ
もう一度あのころに戻りたいと
願わずにはいられないいんです
そう願うことは
いけないことですか?
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あとがきと書いて言い訳
シリアス?ギャグ?
個人的に兄と時人の会話がお気に入り
何故か早矢が狂の頭を突くシーンが人気です(笑)