千の風


  いつも喧嘩ばかりしていたけれど、お互い信頼し合っていた仲だったように思う

  誰よりも強くなろうと、人一倍努力してた貴方が好きだった

  綺麗な青い眼を持つ貴方がが好きだった

  なのに

  四年ぶりに会った貴方は、瞳が固く閉じられ、雰囲気も口調もすべて変わってた

  ――四年前の貴方は何処に行ってしまったのですか?










 「―そもそも貴方のような弱き者が鬼眼の狂の新しい仲間だなんて納得できませんね、その行為万死に値します、死をもって償いなさい」


   青年は腰に差している二本の刀の内、一本を鞘から静かに抜いた

   外見は物腰が柔らかそうな、優しい雰囲気を纏う盲目の青年

   しかし、この男こそかつて狂の仲間であった「四聖天」が一人、アキラであり、今は不倶戴天の敵である十二神将、アジラでもあった
  

 「…もう一本の刀はどないしたんや?」

 「貴方ごときには一本で十分…」


  余程自分の力量に自信がるのか、アキラはもう一本の刀を抜こうとはしなかった

  自分が甘く見られているようで、紅虎は僅かに苛立つ

  この男はただ者ではないということは、気配がまったく感じられないことや、たった一瞬の殺気で自分を戦闘不能にしてしまったことからよく理解できた

  しかし、このまま引き下がっては自分自信が許せないし、情けない

  アキラに闘いを挑んだのは紅虎の意地でもあったのだ


 「…随分と甘く見られとるようだけどな、今度はそうはいかんでぇ!?これでどうや!?」


  その言葉と共に五人の紅虎が現れた――…幻像である

   

 「…『幻像』ですか、面白い技を使いますね…」

 「『幻像』いうてもそんじょそこらの目くらましと一緒にせんといてな―」
   
 「そーやわいらはそれぞれ紅虎の『幻像』であるのと同時にな―」

 「それぞれが本物の紅虎と同じなんや!」

 「へえ…それはすごいですね」
  

  五対一という不利な状況であるにもかかわらず、アキラは落ち着いていた
    
   
 「そうやわいの名は…影法師の紅虎や―!!」
  
    
  五人の紅虎が一斉にアキラに襲いかかる

  前後左右、そして上からも槍が降り注ぐ

  避け切ることは誰もが不可能だと思った

  しかし、アキラは動じなかった

  それどころか、この状況であるにもかかわらず笑っていた――まるで楽しんでいるかのように
 

 「な、何やて!?」


  紅虎は我が目を疑った
    
  五人のアキラの『幻像』が五人の紅虎にそれぞれ刀を向けているのだ
  
  自分と同じ技を、たった一度見ただけで自らの能力としてしまったのか、このアキラという男は

  

 「…わりと簡単なんですね、そろそろ死んで頂きましょうか」

 「ぐ…はっ!!」
 
 「ト…トラァ!!」

 
  紅虎はアキラに吹っ飛ばされ ドゴォンという大きな音を立てて壁に激突した

 
 「これは申し訳ない、ちょっと力を入れすぎてしまったようですね…さて狂、話の続きを…」

 「――まだ終わってねぇだろ」

 「何をバカな……っ!?」

    
  ガラガラっという音と共に、紅虎が瓦礫から立ち上がる

 
 「!?」

 「ト、トラ!大丈夫!?」

 「全然大丈夫や!!勝負はまだこれからやるさかい、よぉ見たってやゆやはん!さあ―続きをやろか!?」

 「フム…どうやら寸前で急所はかわしたようですね、ホメてあげますよ、
  それでも相当なキズでしょう?もうお止めになった方がお身体のためですよ?いくら貴方が頑張っても、私にはかすり傷ひとつ…」


  ポタリとアキラの頬から血が流れ出し、床に落ちた

  頬にはいつ傷付けられたか分からない紅い線が一本、存在を主張している

 
 「どうや?少しはヤル気になったか?」

 「…―いいでしょう、お望み通り瞬殺して差し上げますよ」

    

  アキラはもう一本の刀を鞘から抜いた

  やっとこの男は本気になったのだ、と紅虎は思う

  二人の男が間合いをあけて睨み合うこと数秒間、静寂が空間を支配した


  



   

    


 「はい、そこまで!!」


 しかし、その空間は突如聞こえた声と激しい風によって障子が吹っ飛ばされる音によって破壊された


 「「な……」」


  その場にいた全員が突然起こった出来事に素早く反応することが出来なかった

  窓の外には今し方障子を壊したと思われる少女が、薄紅色の扇を手に持ち、大きな銀色の翼で飛んでいた

  背中に翼がある人間などいるわけがない、とアキラは思う

  しかし、自分を真直ぐに見る彼女の漆黒の瞳に見覚えがあった――ああ、忘れる訳がない

  

 「…?」

 「久しぶり、アキラ」

   
  はアキラの前に柔らかな動作で舞い降りる

 
 「まさか、本当になんですか…?」

 「こんなことで冗談言ってどうするの、ほら」

   
  はアキラの頬に両手を伸ばし、お互いの息を感じられる程の距離まで自分の顔に引き寄せた

  
 「私は誰?」

 「…、でしょう?」

 「当たり」
 

  とアキラがお互いに笑い合った

  その様子に ゆやは驚きを隠せなかった

  先程まで氷のように冷たかったアキラがが来ただけであんなに優しい気に変わっているのだ



 「どうしてがここに…」

 「アキラ」

 「はい?」

 「歯ぁ食いしばれv」

 「え…」
   
  
  バシンと乾いた音が部屋に響いた

  が自分の持っている扇でアキラの頭を思いきり力強く叩いたのである


   
 「〜〜〜〜!!!!!な、何をするんですか!!」

 「…あんたねえ!!何で十二神将なんかになってるのよ!!」


  相当痛かったのだろう――…アキラは微かに震えていた



 「しかも何で敬語になってるの!?嫌味っぽいったらないわ!性格も相当に捻くれてしまったし!昔のアキラの方が断然可愛かった! 
  大体『アジラ』って何なの、『アジラ』って!!似合ってない!!四聖天時代のことが忘れられないくせに、何で十二神将なっているの!!
  馬鹿!アキラの大馬鹿!阿呆!」


  はアキラの頭をバシバシと叩きながら一気に捲し立てる
  
  ゆやと紅虎は顔が真っ青になり、その光景があまりにも恐ろしくて声も出なかった

  仮にも十二神将でもあり、四聖天の一人でもあった男を一人の少女が扇で叩きまくる――はっきり言って異様な光景であることに間違いはなかった
    
  

 「…いい加減にしないといくら貴方でも怒りますよ…?」

  
  
  アキラがガシッとの手を強く掴んだ

  声は低く、僅かに殺気が滲み出ていることから怒っていることが誰の目から見ても明らかであった 

  
 「!!聞いてるんですか!?」

 「……」

   
  自分を掴む手が四年前のときよりも確然と強くなっていることに気付き、成長したんだなぁ、とは思った


 「!」

 「…ねえ、アキラ」

    
  (本当はね、十二神将になったこととか、口調が変わってしまったこととか、性格が捻くれてしまったこととか、そんなことどうでもいいのよ)


  ――本当に、一番、言いたいことは



  
 「どうして眼が閉じてるの…?」


  ――綺麗な青い瞳がどうして閉じられているのかということなのだ

   
    
 「え…?」

 「どうして視覚を封じる必要があったのかって聞いてるの!!
  そんなにサムライの血が欲しかった?そんなにサムライの血を引いていない自分が憎かった?そんなにサムライの才能が欲しかった!?」


  
 (もう二度と見れない、大好きだった貴方の瞳)  



 「誰よりも努力してたじゃない!!狂の背中を追いかけながら誰よりも強くなろうと努力してたじゃない!!
  視覚を封じなくても…十分強くなったじゃない…それなのに…何で…どうしてこんなことをするの…!?」

  
  の漆黒の瞳から大粒の涙が溢れ出す


   
 「…」


  アキラは泣き続けるの腕を離し、頬にそっと手を置いた

 
 「…確かに私が視覚を封じたのは強くなるためです、でも、それとは別に護りたいものもあったからです、命を掛けてでも」

 「護り、たいもの?」
  
 「そうです、それは―…」

 「残念ですが時間ですよ『アジラ』」


  アキラの言葉を遮り、別の男が聞こえた

  声がした窓の外に目をやると、旅籠の向いの屋根に三人の人陰が見えた


 「シンダラ…アンテラ…ビカラ…」
 
 「この日を待ちわびましたよ…」

 「やっほ―狂ちゃんもちゃんも久しぶり〜!!」

 「相変わらず殺しがいがありそうねv」


    
  は泣いて真っ赤になった眼で三人を鋭い眼差しで見つめた

  昔闘ったことがある、あの、信長を守護する十二人の武神、名を 十二神将という彼らが再び自分の前に姿を現したのだ 



 「どうやら迎えがきてしまったようですね…
 
 
  アキラはの顎を軽く掴み、窓の外を睨むように見ていたの顔を自分の方へと向けた

     
 「…、私が命をかけて護りたいものは、貴方だけです」

 「アキ、ラ…?」

 「四年前から、ずっと、貴方だけを思い続けていましたよ」


  甘美な言葉が頭に浸透し、その意味を理解する前に、端正なアキラの顔が近付いてきた

  目を見開き、抗議の言葉すら紡ぐ時間はなく

  唇に温かいものが触れた

  それは時間にして約数秒の出来事であった

 
 「、貴方は私のものです、それを忘れないでくださいね、そうそうゆやさん…」


  ぼんやりとしていた頭が徐々に冴えてきた頃には、すでにアキラは三人の十二神将と共に屋根の上にいた


 「私ね…『背中に傷のある男』知ってますよ…」

 「え…?」

 「――もっともこのことは狂もも知ってることですけどね」

 「っ!?アキラさん!!」

 
  ゆやの焦燥感を帯びた声がしんとした空気に染み込む前に、アキラを含め四人は跡形もなく消えていた


 「アキ、ラ…」


  この状況の中で、はまるで熱を帯びたように熱い唇にそっと触れることしか出来なかった


  




   

 


  いつもケンカばかりしていたけれど、お互い信頼しあってた仲だったと思う

  でもそう思っていたのは私だけだった

  綺麗な青い眼を閉じてしまったのは、強くなるためと、私を護るためと言っいてた
 
  あと、私をずっと思い続けていたことも言っていたね

  いきなりたくさんのことを言われて頭が全然働いてくれない

  ただ

  覚えているのは

  


  あなたの唇の感触だけ










 


 

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