千の風 26話


  この先に何が待ち受けているか分からない

  それでも 

  私は

  私達は 進まなくちゃいけないんだ 















                






                      




                            千 の 風 





















 「、参上つかまつりました」

 
  は片膝を立て その上に腕を置いて頭を下げていた

  声はいつもと違う雰囲気を醸し出している

  どことなく緊張しているようにも聞こえる


 「面を上げておくれ、―…」


  そんな空気の中で聞こえる優しい声

  言われた通りに顔を上げれば 紅い髪が目に入った

  後ろから差す光に反射してキラキラと光る

  紅い瞳 鬼眼の狂と同じ瞳を持つ者は その存在自体が宇宙の理とさえ言われる者

  壬生一族の最高権力者…先代 ”紅の王” その人である

  紅の王は床よりも高い位置に置かれている大きな椅子に座り こちらを見ていた

  その位置は高く 床まで階段が伸びている



 「恐れながら先代 ”紅の王” 御用の向きは…?」

 「ふふ、ただと話をしたかっただけだよ?」

 「お戯れを…あなたにはまだやるべきことが沢山あるでしょう」

 「と話をして交流を深めることも、立派な仕事の一つだと思うけれど?」

 「あはは、まさかそんなことで俺を呼んだなんてことはありませんよね?」

 「あはは、そのまさかなんだけどなぁ」






  ガ キ ィ ン







 「ああ申し訳ありません、紅の王、手が滑ってしまいました」






  紅の王が座っていた椅子の背もたれに剣が深く突き刺さっている

  場所は彼の顔のすぐ真横で 頬から一筋の赤い線が見えるのは気のせいではないだろう



 「きゃあ−−!!く−ん、怒ってるの−−−!?」

 「そんな理由で俺が呼び出されたかと思うと腹立たしくてね」

 「…さっきと口調が違うのは気のせい?」

 「お前にはこの言葉遣いで充分だ」


  微笑んではいるものの目が笑っていないに最高権力者である紅の王もその勢いに押された

  背中に冷たい汗が流れているのは気のせいではない

  は階段を上り 紅の王が座っている椅子の肘掛けに座った


 「本当は、のことを聞くために俺を呼んだんだろ」

 「何だ…全部お見通し?」

 「当たり前」

 「さすがだね…そう、は元気にやっている?」

 「あいつは俺の妹だぜ?そんなに心配しなくても大丈夫だって」

 「でも、泣いたりしていないとかつい考えてしまうんだよ…
  あの子は、一人で全部抱え込んでしまう子だから」

 

  そう言った先代の顔をちらっと見る

  その表情は本気でを心配している顔 まるで子を案じている親の表情だった

  俺とにとって先代 ”紅の王” は親と言っても過言はないかもしれない

  父さんとまるで親友のように仲が良かった先代は 俺達を自分の子供のように可愛がってくれた

  だから俺もも先代に敬語を使うことに慣れてはいない

  ひしぎに散々注意されるけど 無理なものは無理なんだよな



 「ねえ、そんなに君達は壬生から出たいの?」
 
 「え?」


  先代の声が静かに響いた

  先程とは違う雰囲気を感じて俺は顔を向ける

 
 「そんなに、ここから出て自由になりたいの?」








 「明来が死ぬ真際に見た夢を、忘れたわけではないだろう?」

 「――っ!!」
 








  ―明来 

  それは俺との父親の名前

  一族は古来より 未来を夢で見る力を授かっている

  それ故 世の権力者達の右腕とも言われる地位になることが少なくなかった

  裏で歴史を操るのが壬生一族ならば 表で歴史を支えるのは一族といっても過言はない


  だからなのか



  一族は滅んだ いや 滅ぼされた

  その力を恐れた誰かの手によって

  歴史から忽然と姿を消したんだ


  その当主でもあった父

  彼が見た夢は違えることはないと言われている

  その父さんが 死ぬ 真際に見た 夢




 「―あれは…!」

 「、運命は変えられないんだよ?」



  ヤメロ



 「明来が見た夢、それは君達の末を見た、夢」



  ヤメロ



 「君達のどちらかが自由となる、夢」



  ヤメロ



 「君達のどちらかが壬生の為に生きる運命を持つ、夢」



  ヤメロ




 「そう」






 「君達のどちらかしか出来ないんだ―…壬生の外に出て自由になるのは」









 「止めろっ!!」




  
  バ リ ィ ン





  
  の瞳が紅くなる 風が舞う

  壁 柱に大きな亀裂が入った



 「ハア、ハア…」


  肩で大きく息を吸う

 
 「そんな未来は訪れない、決まった未来なんてない、もしそんな夢があるのなら…俺が壊してやる」

 「、」

 「黙れ!!」


  激しい風がを包み込む

  思わず目を瞑ってしまう程の風

  風が止み 再び静寂が訪れた時 もうそこにの姿はなかった













 「ちくしょう!!」


  ガツンと壁を叩いた 叩いた拳から血が流れる


 「ちく、しょう…!!」


  俺とのどちらかしか壬生という鎖から離れることはできない

  それが父さんの見た夢


  

  もしが壬生に残るのなら

  次代 ”紅の王”の伴侶となり その純粋さ その慈愛の心で 紅の王を支え 

  壬生を優しく護り通すでしょう

 

  もしが残るのなら

  その強さ その存在感 その身心すべてに皆が惹かれずにはいられない 愛されずにはいられない

  宇宙の理を持つ








  紅の王となるでしょう…

















 「そんな運命、あってたまるかよ…!!」


  紅の王になる? 冗談じゃねぇ  

  俺はただ 狂と京四郎が紅の王にならなかったときの予備の人間にすぎない

  でも もしこの二人のどちらかが宇宙の理を持つ者になったら は壬生に一生縛られる

  あいつは次代 ”紅の王”の伴侶となる運命を持っているから

  
  だから何度も狂と京四郎の二人を殺そうと思った

  でも




 「出来るわけないだろ…!!」


  どちらも大事な戦友なのだから

  それにこんなことをしたっては喜ばない

  こんなことをして自由になってもあいつは喜ばない

  それは身を持って知った

  だから 残された道はただ一つ



 「壬生を滅ぼしてやる」


  の紅い瞳がいっそう輝いた



 

  もう それしか 道はないんだ



















 「ゆや、大丈夫!?」

 「は、はい…!!」



  とゆやの二人は 今 林の中を駆け抜けていた

  先程聞こえた音の正体を確かめるためである

  でも には分かっていた

  聞こえてきた音と共に感じた二つの闘気

  一つは恐らく梵天丸のもの

  そしてもう一つは―…



 『すぐに迎えに行くから』



  四年前 狂と共に戦場を駆け抜けた 四聖天ほたる

  しかし その正体は壬生一族 五曜星のケイコクでもある

  恐らくほたるのことだからボンにケンカでも売ったのだろう

  壬生に戻ってからずっと狂や他の四聖天と闘いたかったと言っていたから




 「さん、あれ…!!」

 「!!」


  ゆやが指を差したその先には 一面の炎

  まるで生きているかのように燃えているソレ

  間違いない


 「どうしよう…!この先に行けない!」 

 「ほたる、本当に来たの…」
 
 「さん?」

 「ゆや、少しの間目を瞑っていてくれる?」

 「え、どうしてですか?」

 「このままだと先に進めないわ」


  本当は早矢がいれば話は早いけれど 

  今は狂と村正が修行をしている洞窟を見張らせているため ここにはいない

  だから



 「一瞬で飛びましょう」

 「え”、」


  そう言って笑ったの周りに風が集まった












 「…楽しいね」

 「ああ…」


  ほたると梵天丸はお互いに笑いあった

  そしてそれと同時に二人の殺気が一気に膨らむ

  二人の力は互角

  このままいけば確実にどちらかが 或いは二人とも死ぬ

  そう思わせるような激しい闘気が辺りを包んだ



 「次でキメんぜ」

 「オレがね…」



  その時



 「そこまでよ、二人共」



  声が響いた

  この声は



 「…?」



  ほたるの殺気が一瞬で消えた

  風がある一点に渦巻くように集まる

  そして風が消えると同時に見えたは二つの影



 「!?ゆやちゃん!!」

 「ぼ、梵天丸さん…!!」

 「ああ、ゆや、ごめんね、酔った?」

 「ま、まさか…お前…!」

 「うん、空間を飛んだの」

 「馬鹿野郎!!あれは酔うから使うなって前から言ってるじゃねーか!!」

 「え、だって私、酔ったことないわよ?」

 「それはお前とだけだ!!」



  だってこっちの方が早いんだもの
 
  そう言おうとして言葉を飲み込む

  それは自分を見る金色の瞳と目が合ったから
 


 「

 「…ほたる、久し振り」

 
  そう言いながらはほたるに近付いた


 「さん!!」

 「待て、ゆやちゃん」

 
  今にも走り出しそうなゆやを止めようと 梵天丸は肩をがしっと掴む



 「でも…!!」

 「あの二人なら大丈夫だ、ほたるはを絶対に傷つけたりしない」

 「え…?」








 「ほたるは昔からにベタ惚れだからなぁ」







 
  
  腕を引かれて強く抱きしめられた

  ほたるは私の肩にコツンと額をあてて 動かない



 「ほたる、」

 「…った」

 「ん?」

 「がいなくて寂しかった」



  ほたるの腕の力が増々強くなる

  こんなに寂しい思いをさせていたのかと罪悪感を感じてしまうほどに

  は手を伸ばしてほたるの金色の髪に触れ 

  そして柔らかい感触を楽しみながら私はゆっくりと髪を撫でた




 「…ごめんね、ほたる」

 「……」

 「ほたる?」

 「ねえ、

 「何?」

 「捕まえた」

 「は、」

 「狂と村正を暗殺してくるつもりだったけど、もうが壬生に戻ればいいや」



  いや そんなこと真顔で言わないで下さい…!!


 
  背中に回っていた腕がいつの間にか腰に回り 身動きがとれなくなっていた




 「ほ、ほたる」

 「ね、、一緒に帰ろ?」

 「ほたる、ちょっと話を聞いて…!」

 「ヤダ」

 「即答!?」

 「ほたる、を連れて行かせるわけにはいかねぇな」

 「何、梵天丸…オレとの仲を邪魔する気?もしそうならただじゃすまないよ」

 「が連れて行かれたらオレが狂に殺されるんだよ!」

 「いいじゃない、そのまま死ねば」

 「てめぇ…!!もういい、お前はやっぱりここで往生しろ…!!」

 「やる気?別にいいけどね、お前を倒してからを連れ返せばいいんだし」

 「ほたる!!ボン!!止めなさい!!」



  二人の闘気が一気に高まる

  ほたるは私を庇うように自分の後ろに置いた



 「ほたる!!ボン!」

 「きゃあああああ!!」





  カッ



  
 


  ほたると梵天丸が衝突しようとしたその瞬間

  二人の間に光が発した



 「え…?」



  それは一本の刀

  見たことがある その刀



 

 「…四聖天二人の動きを刀一本で止めるなんて」

 「そんな芸当できる奴ぁヤツしかいねえ…」



  この覇気

  この闘気

  そして この鬼気




 「さん…!!」




  間違いない





 「狂―…!!」






 

  
  生きて帰って来た 









  
  この先に何が待ち受けているか分からない

  それでも 

  私は

  私達は 進まなくちゃいけないんだ 

  例え

  


  どんな運命を背負っていても














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