千の風 23話
私は自由になれますか
私は風になれますか
私は鳥になれますか
千の風は
私を
空高く舞わせてくれるでしょうか
千 の 風
『は大きくなったら、何になりたいの?』
『んとねーとりさんになりたい!』
『鳥?』
『そう!とりさんになっていろいろなところにいくの!』
まだ 自由になることの難しさを 知らなかった頃
『ねえ、どうして鳥はあんなに空高く飛べると思う?』
『えー…?』
『鳥があんなに高く遠く飛べるのはね、風のお陰なんだよ、千の風の力なんだ』
『せんの、かぜ?』
『そう、の周りにも吹いているんだよ、お前を空高く飛ばしてくれる、千の風が』
そんなことないよ 父さん
私には千の風なんて吹いてない
私 やっぱり 自由になれない 鳥になれない
私 これからどうしたらいい?
どこに 進んでいけばいい?
ねえ 父さん
教 え て
「…っ」
『目が覚めたみたいだね』
うっすらと目を開けると
銀色の瞳とぶつかった
銀色の髪に銀色の瞳
人形になった私の相棒
「早…矢?」
舌が上手くまわらない
どうして 私は眠っているの?
『覚えてない?村正に抱き着いてそのまま気を失ったんだよ』
「え…」
私はどうやら 村正に抱き着いたまま 気を失ってしまったらしい
そして意識のない私をここまで運んでくれたのが 狂のよう
「…村正は?」
『心配しなくても大丈夫だよ、血はもう吐いてないから』
「良かった…じゃあ、ゆや…は?ゆやは、大丈夫?」
『……』
「早矢?」
『…無理してる、本当は怖いはずなのに、それを気付かせまいと、無理に明るく振る舞ってる』
『今、子娘の体の中に我が水龍を差し入れた…水龍は子娘の全身の血管をかけめぐり
ちょうど六十日後 心臓を喰い破って出てくるだろう』
辰伶の言葉が頭に響く
私はぎりっと唇を噛んだ
巻き込んでしまった
関係ないのに
ゆやは
まったく関係のない子なのに
巻き込んでしまった
私たち
壬生の争いごとに
「私、やっぱり鳥には、自由にはなれないね…」
『…』
「私はいつまでたっても鎖に繋がれた鳥、壬生という鎖から逃れられない鳥…」
『…、それは』
「が私を外に出してくれても、限られてるとはいえ自由を手にいれたとしても、
私から壬生と言う名の鎖は外れなかった」
どんなに願っても
どんなに望んでも
私は鎖に繋がれた鳥
空を見上げれば
風は吹いているのに
千の風が 吹いているのに
私の周りには 風は ない
あ の 風 に 舞 う こ と は で き な い
「っ…ひっく…」
目から涙が溢れ ポタッと落ちる
落ちた雫が 布団にしみを作った
『…』
「早矢、ど…しよう…!」
私に絡む鎖が
私の大切な人たちを
傷つけてしまった
取り返しのつかないことをしてしまった
「護るっ…て誓ったのに…!」
誰も傷つけないと 誓ったのに
私のせいで
みんなを
危険な目に 合わせてしまった
何 て 私 は 無 力 な の だ ろ う
ガラッ
障子が開く音がして 思わず顔を上げる
涙でよく視界は見えないけれど
紅く輝く瞳と目が合った
「狂…?」
「……」
「狂?どうしたの…?」
狂は答えない
眉間に皺を寄せ 黙ったまま襖を閉める
そしてそのまま私の側までやってきた
「…何泣いてんだ、てめえは」
濡れた瞳を 親指で優しく撫でられる
その優しさに また涙が出そうになるのを必死で堪えた
「泣いて、ないよ?」
「うそつくんじゃねえ、じゃあ何で目がこんなに濡れてんだ」
「目にゴミが入っただけよ、気にしないで」
「……」
狂の視線が痛くて 俯く
私はぎゅっと目を瞑った
その紅い瞳に すべてを見透かされそうで 怖い
お 願 い
見 な い で
何 も
聞 か な い で
「っ…!?」
ふわっと体が浮く感じがした
膝の裏に暖かい腕の感触がする
恐る恐る目を開いてみると 目の前には狂の整った顔があった
紅い瞳と目が合う
「え、ちょ、ちょっと…!」
「村正にお前を呼んでこいって頼まれたんだよ、そろそろ起きるころだろうってな」
「そうじゃなくて…!こんなことしなくても自分で歩けるわ!」
「クク…照れてんのか?」
「違 い ま す !ちょっと早矢!助けてよ…!」
『村正に呼ばれてるんでしょ?いってらっしゃい』
「早矢…!?」
にっこりと笑いながら手を振る早矢に絶句する
その顔は面白がっている顔
『鬼眼、を頼んだよ』
「ああ」
「は、早矢の馬鹿ーーーっ!」
非難の声を上げても
狂は耳を貸さないし
早矢にも見捨てられてしまった
そのせいか 一気に脱力感が体を襲う
「…」
「何よ」
部屋を出てすぐ 歩きながら でも視線を前に向けたまま狂は言う
「…何でも一人で抱え込むな」
「え…?」
それきり狂は何も言わなかった
『何でも一人でやろうとしてはいけませんよ』
村正の言葉が頭をめぐる
私は黙ったまま狂の首にしがみついた
体温が温かい
私を抱く腕の力が 強くなった 気がした
「ああ、来ましたね」
「村正ぁ…」
「クスクス、顔が紅いですよ?」
「煩 い !」
襖を開けると 村正がにこにこと笑いながら迎えた
紅い顔で睨んでも 村正は笑みを絶やさない
笑いながらふとんから起き上がってはいるけれど
まだどことなく顔色が悪かった
「…何やってんだお前」
「聞かないで…」
疲れた顔をしながら言う私に ボンは同情の視線を送る
狂は黙ったまま村正の側まで歩いていく
そして そこでやっと下ろされた
村正の側に座り 狂自身も私の隣に座る
静かな空気が辺りに流れた
「、大丈夫ですか?」
最初に沈黙を破ったのは村正の方だった
「それを言うなら村正の方でしょう?」
「私のことは心配無用、私が言っているのはあなたの心のことです」
「ここ、ろ?」
「そう、サトリの私には分かります、今、あなたの心は悲鳴を上げている」
「……」
「…一体、何があったのですか?最後に会ったあの日から」
「……」
「に、何があったのですか…?」
『この身に水龍を入れてもいいぜ?少しでも壬生を出たら、この身を食いちぎって出てくるように』
の言葉が頭を回る
胸が締め付けられる
「村、正…が…」
「ゆっくりでいいですよ、…」
「が、私のために…」
『この身を犠牲にしても、、お前だけは自由にしてみせる』
「私の、為に、犠牲なって」
『このままじゃずっと壬生という鎖に繋がれたままだ、だから…』
「壬生に残って、くれたの…私を外に出す代わりに自分が残るって言って…!」
ポツリポツリと話す
また 涙が溢れた
「それで、もし、自分が壬生を出たら、この身を喰いちぎって出てくるように、
水龍を、入れてもいいって言ってくれ、て…!」
涙のせい?
うまく 喋れない
「そう、ですか…が…」
「…ねえ、村正、私どうしたら、いい…?」
限られた自由の中で
もう誰も傷つけないと
必ず 狂を護ると
必ず みんなを護ると
そして
の鎖を断ち切ると
決めた のに
『今、子娘の体の中に我が水龍を差し入れた…水龍は子娘の全身の血管をかけめぐり
ちょうど六十日後 心臓を喰い破って出てくるだろう』
大切な人を
ゆやという少女を
傷つけてしまった
そしてそれと同時に
『お前もその子娘の命を救いたければ、我が壬生一族に戻ってこい、お前が元いた場所に』
思い知らされた
限られた自由を手にしても
私は 鎖に繋がれた鳥だと
壬生という名の鎖から 逃げられないと
私は 鳥には 自由には なれないということを
この鎖が 私に絡み付く限り
この鎖は 私の大切な人を傷つけてしまう
だから
思ってしまう
壬 生 に 戻 っ て し ま お う か と
「…言ったでしょう?何でも一人でやろうとしてはいけないと」
静かな部屋に 村正の声がよく響く
涙で視界はぼやけているけれど
青色の瞳はよく見えた
村正は私の頬を両手で挟み
額をコツンと当てる
「、千の風という言葉を覚えていますか?」
「せんの、かぜ…?」
「そう、あなたの父、明来がよく言っていた言葉です」
『ねえ、どうして鳥はあんなに空高く飛べると思う?』
『えー…?』
『鳥があんなに高く遠く飛べるのはね、風のお陰なんだよ、千の風の力なんだ』
今朝見た夢を思い出す
そこで父さんが言っていた千の風という言葉
風にはいろいろな役目がある
風は
季節を
時間を教えてくれたり
人を
癒し
慰め
時には
厳しく
強く
背中を押してくれる
そんな役目があると父さんはよく言っていた
だから 風は 千の風とも言うのだと 教えてくれた
「、あなたの周りにも千の風は吹いているのですよ」
『の周りにも吹いているんだよ、お前を空高く飛ばしてくれる、千の風が』
村正と父さんの言葉が重なる
「そんな、こと、ない…っ!」
「何故そう言い切れるのです?あなたは視野が狭すぎる、もっと周りをよく見てごらんなさい」
「狂はん、はん!」
「え…?」
「あなたの周りには千の風が吹いています、あなたに絡み付く鎖を断ち切る程の力をもった、風が」
声がした方に視線を向ける
すると そこには
トラ 阿国さん サスケ 幸村の姿
「みん、な…?」
「話は聞いたで!わい、ちょっくら江戸に行ってくるわ!!バカオヤジ守って゛壬生゛の野望潰したる!!
ゆやはん、はん、はんのために…もっと強うなってきたるわ!!」
「私は京の都に行きますわ、見聞屋の力をフルに使って狂さんの躯の在り処を必ずつきとめてきます」
「ボクは京の鞍馬山へ…゛壬生゛へのカリとゆやさんへのカリ、それにとへのカリを
きちんと返さないとねv」
「オレも江戸へ行くぜ、幸村がそのボンクラだけじゃたよりねーって言うからよ」
『あなたの周りには千の風が吹いています、あなたに絡み付く鎖を断ち切る程の力をもった、風が』
村正の言葉が頭に響いた
涙が頬を伝う
ああ そうか
どうして
気付かなかったのだろう
「てめえら全員オレ様の下僕にふさわしい強さを身につけてこい、でねえと今度は本当に殺すぜ?」
「よっしゃあ!!決まったわ!!みんなメッチャ強うなってやろうやないか!!」
私の周りには風は吹いていたんだね
私を空高く飛ばしてくれる 千の風が
「みんなであのクソ生意気な壬生一族を全員ぶっ斃し、ゆやはんの命、それからはんとはんを」
そう
私にとって 千の風は
「自由にしてあげようやないか!!」
あなたたちです
「…ひっく…ふ…」
泣く私を 村正は優しく抱きしめた
「、言ったでしょう?一人で全部抱え込んではいけないと」
どうして私は一人で抱え込んでいたのだろう
「あなたの側には誰よりも強く誰よりも優しい侍たちがいるんです」
自分を信じていなかったのかな?
みんなを 信じていなかったのかな?
「あなたの周りにはいつも風が吹いているんです
あなたを空高く、そして遠くに飛ばしてくれる千の風が」
いつでも
「だから 」
風は
「もっとみんなを頼りなさい」
私の側にいたのに
「あなたは一人ではないのですから」
私の周りで吹いていたのにね
「うん…っ!」
涙が止まらなかった
村正の体温が
みんなの心が
暖かくて
優しかったから
もう
迷わない
不安に ならないよ
『ねえ、どうして鳥はあんなに空高く飛べると思う?』
『えー…?』
『鳥があんなに高く遠く飛べるのはね、風のお陰なんだよ、千の風の力なんだ』
『せんの、かぜ?』
『そう、の周りにも吹いているんだよ、お前を空高く飛ばしてくれる、千の風が』
あの夢は
きっと
私に気付かせるために
父さんがしたこと なのかもしれないね
自由に
風に
鳥に なるために
信じよう
自分を
みんなを
行く先が闇でも
光を求めて行こう
進むことを止めないで
そうすれば
きっと
いつか
千の風に舞って
大空を飛べるから
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