千の風 22話





  誰 か 教 え て 下 さ い























                      
                           千 の 風 




















 「ほたる、重い」

 「んーたぶん気のせいじゃない?」



  ほたると背中を合わせて座ってから もうどれくらい経ったのだろう

  ほたるが俺の背中に体をあずけているから

  本を読んでいる俺としては少しツライものがある


  いきなり部屋に入ってきたと思ったら



 「、オレと死合って」


  って言うものだから驚いた

  オレに死合いを申し込むときは

  必ずほたるに何かあったときだ

  実際 この部屋に入ってきたとき
 
  不機嫌さを露にしていたから




 「んで?辰伶と何があった?」

 「…何でそこで辰伶が出てくるの」

 「お前がそこまで不機嫌なときは必ず辰伶と何かあったときだろ」

 「……」



  図星とみた



 「辰伶が」

 「ん?」



  ぽつりぽつりとほたるが話し出す





 「辰伶が村正と狂を殺しに行ったんだ」

 「は?」

 「オレは反対したのに…誰も何も聞いてくれなかった」

 「……」

 「何でだろ…?」

 「五曜星の中で辰伶が一番適役だからだろ…お前だと暗殺っていうことを忘れて狂と死合いそうだし」

 「…じゃあ辰伶は暗殺に成功すると思う?」

 「まあ…みずちですらまともに使えない狂には勝てるかもしれないけど、真の無明神風流を知ってる
  村正にはいくら何でも勝てないだろ…例え二人相手に優勢になったとしても」






 「が殺させないよ」







 「…そっか、、強いもんね」

 「当たり前だろ、俺の妹なんだし」

 「うん、すごく納得」

 「……」

 「それに二人とも…」








 「村正の血が少なからず流れているもんね」


























  一瞬何が起きているのか分からなかった




  狂と村正以外にも 

  懐かしい気配を感じて

  水の薫りがして

  すぐその場に駆け付けた




  するとそこには




  呆然としている幸村とトラ

  傷だらけの狂

  口から血を流して倒れている村正

  咽を押えて震えているゆや


  そして


  その前に立っている
 
  銀髪の青年

  懐かしい その姿


  
  ああ



  水 の 薫 り が す る 









 「しん「…村正様に免じて今日のところは引いてやろう、そのかわり、一つ賭けをしてもらおうか」


  辰伶 と言おうとした私の言葉が辰伶の声によって遮られた



  そして


  次の瞬間 私は辰伶の口から発せられた言葉に固まった









 「今、子娘の体の中に我が水龍を差し入れた…水龍は子娘の全身の血管をかけめぐり
  ちょうど六十日後、心臓を喰い破って出てくるだろう」








  え ?







  ス イ リ ュ ウ ?







 『ス コ シ デ モ ミ ブ ヲ デ タ ラ』






 『コ ノ ミ ヲ ク イ チ ギ ッ テ デ テ ク ル ヨ ウ ニ』

 


 

  頭の中で の言葉が回る




  気がつけば


  私は刀を抜いて 


  辰伶の元に走り出していた 



  早矢が銀色に光って


  背中に翼が生える







 「辰伶−−−−−−−っ!!!」

 「!?」








  ガ キ ィ ン








  私の刀と辰伶の舞曲水がぶつかりあう

  風と 水が 舞い上がる






 「っ…!!」

 「はん!?」

 「…さん」








  みんなが私の名前を呼ぶ

  でも

  耳に入らない






 「くっ…!」

 「辰伶…!あんた ゆやに何をしたの!?」





  怒りが

  力になる


  瞳が熱い





  ガ キ ィ ン






  
  お互いに少し離れて 間合いをとった







 「何をした、だと?その子娘に水龍を入れただけだ、キサマらは己が痛みより他人の痛みの方が
  こたえるようだからな」

 「だからって…どうしてこんなこと…!」

 「一つの賭けだ、その子娘の中にいる水龍が心の臓を喰い破る前に 
  我が一族の野望を見事阻止できるかというな」



  淡々と述べる辰伶に怒りが沸く











  どうして

  あなたたちは

  関係のない人たちを

  巻き込むの














 「だから 





 「お前もその子娘の命を救いたければ」





 「我が壬生一族に戻ってこい」






 「お前が元いた場所に」







  みんなの息を飲む音がした





 「…さんが壬生一族…!?」

 「……」




  は黙ったまま辰伶を見続ける




  京四郎 狂 村正だけでなくまでもが壬生一族なのか






    


 「残念だけど、私はまだ帰るつもりはないわ」


  の凛とした声が響く

  その漆黒の瞳には決意の色が映し出されていた




 「私には、まだ、やるべきことがあるの、護るべきものがあるのよ、この命にかえても」




  
  これが私の選んだ道だから












 「…!お前は今の自分の立場を分かっているのか!?壬生では…!」

 「私の存在を快く思わない人がいるのでしょう?ただでさえ私は」






 「人間の父親を持ち、母は壬生を裏切った元大四老の長、村正の妹なのだから」






  父は人間でありながらその能力を買われ 壬生の住人になった人間

  母は村正の妹で 類い稀なる力を持った壬生一族の人間



  その二人の間に生まれたのが 私と



  私たちには 壬生の血と人間の血が混ざっている







 「辰伶、私は壬生一族ではないわ、私の血には人間の血が流れている…私は人間なのよ」
 
 「違う…!お前は壬生一族だ!あのクズ共と同じではない!!」

 「どうしてそこまで人間を嫌うの…?どうしてそこまで人間を卑下するの…!?」

 「お前こそ…なぜ壬生を出てまでそのクズ共と一緒にいる!?」





 「自分の…自分の兄を犠牲にしてまでも一緒にいたいヤツらなのか!?」   
 『自 分 の 兄 を 犠 牲 に し て ま で も ?』



  辰伶の声と時人の声が重なる





 「……っ」

 「お前は…お前はよりも鬼の子と共にいることを選んだのだろう!?」



  違 う



 「…違うわ、私はを見捨てたりなんかしていない」




  私は




 「何だと…?」




  私は 選んだの



 
 「私は、どちらも選んだのよ、も狂も」




  両方を 選んだの




 「どちらも助けると、決めたのよ」




  どちらも 大好きだから









 「お前は…!」


  辰伶が私を睨む

  その体が震えている




 「お前だけは、壬生を裏切らないと思っていたのに…!」




 「お前…だけは俺の側にいると思っていたのに…!」

 「辰…伶?」


 
  茫然とする私の元に 辰伶がゆっくりと近付いてくる


  私は刀を構えなかった

  いや 

  出来なかった
 
  体が動かなかった




  辰伶の手が私の頬を包む

  ゆっくりと顔が近付いてくる



  唇に暖かいものが触れた




  強い 水の薫りが した





 「俺は、お前が…」




  私 が 何 ?











 「辰伶…!キサマァ!!」


  金縛りから解けたように狂が動きだし 辰伶を斬った

  体が二つに別れる

  あまりにもあっけなくて 目を見開いた





 「辰伶!」




  二つに別れた体は水になって地面に落ちる

  服が水に濡れた





 「し、辰伶の体が水に…!?」

 「いつの間にすり替わったんだ!?」







 

 『…狂―…見せてみろ―そのハンデだらけの体でどこまでできるか…真の無明神風流を修得し
  己の躯を取り戻せるか…それとも壬生が天下を手にし、その女が死ぬのが早いか―
  『希望』とやらの存在理由を見せてみろ…一匹の鬼が…神の一族に勝つことができるかを―…』 


  辰伶の声が 森に響いた



 『そして…、お前はオレが、必ず連れ戻す―…』
















 「さん!!」

 
  最初に動いたのはゆやだった

  まだ茫然としている私の元に走り寄り 肩を掴む



 「さん!!大丈夫ですか!?まさか私と同じように水龍を入れられたんじゃ…!?」






  水 龍 ?

  そんなもの 入れられてない

  あれは ただの 口付けだった

  


  自分の 思いを 伝える ための




  自分の唇に触れてみる

  熱い




 

  私は何も言わずにゆやを抱きしめた



 「…さん?」

 「ごめんね、ゆや…!怖い思いをさせて…護れなくてごめんね…!」


  涙が 溢れた


  私は また 大切な人を 犠牲にしてしまった

  あれ程 もう 誰も 傷つけないと 決めたのに





 「…」


  村正が荒い息をしながら 私の元に来た




 「むらまさ…」

 「に何があったのですか…?辰伶が言っていた犠牲にしたとは一体…どういうことですか…?」

 「…っ」


  私は村正に抱き着いた



  涙が止まらない

  まるで 今までの不安が爆発したように








 「ねえ、村正…私、どうしたらいいのかな…」





  誰 か





 「私…もうどこに進めばいいのか分からないの…っ!!」





  教 え て 下 さ い





 「…」



  泣きじゃくるを村正は優しく抱きしめた















 

 「…え?」

 「…?」



  瞳から涙が溢れた
 
  涙が頬をつたって下に落ちる 


  何故?

  こんなにも 胸がしめつけられる


  悲 し い

  苦 し い
  
  痛 い
 
  怖 い 

  助 け て 

  

  

  教 え て 









 「…?」




  こ れ は 誰 の 涙 ?
 




 「?どうしたの…?」

 「違う…これは…の涙だ…」











 「が 泣いてるんだ…」





  一体 に 何が あった?



















  涙が止まらなかった

  どうして?


  みんなを傷つけてしまったから?

  ゆやを護れなかったから?

  辰伶に口付けをされたから?



  違う



  きっと



  自分の無力さを痛感したから

  
  やっぱり私の力は無力

  何て 私の力は 無力なんだろう



  これから私はどこに進めばいい?








  誰か 教えて下さい


















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