千の風 21話


  私には 

  まだ

  やるべきことがある

  護るべき人がいるの



















          







                     

                       千 の 風
























 「ようこそみなさん…遠路はるばるおつかれ様です」


  そう言って村正は微笑んだ

  ゆやはちらっと先程村正の家から出てきた刺客を見る

  この斬れ方は 間違いなく無明神風流″みずち″

  狂と京四郎以外にも使える人がいたのだろうか

  狂とはどんな関係なのか

  そして

  何故この人までが壬生一族に狙われているのか

  様々な疑問がゆやの頭を巡る





 「村正ァ、約束通り狂のヤロー連れてきてやったぜ」

 「ありがとう梵天丸君、そして狂…来てくれてありがとう、どうしてもこの命が燃え尽きる前に
  今一度、私の愛弟子の顔を見ておきたかったんだ」


  村正の言葉に驚く

  狂に師匠がいた…?


 「で…弟子って!?狂はんに師匠なんかおったん!?」

 「そうか…狂さんに無明神風流を伝えたのはあなただったんですね」


  では やはり先程の″みずち″は村正なのだろうか


 「フン…思ったより元気そうじゃねぇかよ」

 「君も…あいかわらずで何よりです…そして」



  村正はを見た




 「…あなたも元気そうで何よりです」

 「むらまさ…」



  も村正を見る















  ねえ 村正


  聞きたいことがあるの

  聞いてほしいことがあるの



  病気が進行してるってどういうこと?
  
  が私の代わりに苦しんでるの どうやったらを助けられる?

  私のこの力は本当にみんなを護ることができるの?



  ねえ 村正  





  私 は ど う す れ ば い い ? 

  





  は村正に近付き 

  そして

  抱きついた



 
 「…?」

 「……」

 「どうしたのです?黙ったままだと分かりませんよ」



  村正の問いには答えない

  ただ 腕の力を強くするだけ


  その様子に 村正は困ったように笑い を強く抱き締め返した



 「まったくいつまでたっても甘えん坊ですね」
 

  そう言いながら村正はの黒く長い髪を優しく撫でた


   私が外に出るときと同じように

  まるで子供をあやす母親のように


  優しく

  何度も

  何度も





  
 「、ほら、もっと顔を見せて下さい」



  村正は自分の胸に顔をうずめているの頬を両手で挟み 上にあげさせた
  
  青色の瞳と漆黒の瞳の視線が 交わる



 「良かった…変わりはないようですね」

 「変わるも何も…最後に会ってからまだ少ししか経っていないでしょう?」

 「そうでしたか?」

 「年…」

  「?」

 「ウソです、ごめんなさい」


  やっぱりこの人には逆らえないわ…!

  

 「…」

 「な、何でしょう…?(読まれた!?)」

  
 


 「お帰りなさい」




  村正が優しく微笑みながらそう言う

  一瞬驚いたけれど
  
  すぐに私も笑いながら言った




 「ただいま 村正」





  次に会う時は狂も一緒って言ってたけど

  こんなに早く叶うとは思ってもみなかった
















 『村正 元気そうで良かったね』

 「…そうね」



  村正がゆや達に自分の能力を説明している

  久しぶりに人に会ったことで つい 心を読んでしまったようだ

  やはり みんな驚きを隠せない様子で

  サスケなんかは 後ろに後ずさっている

  恐らく 村正に近寄る程心を読まれると思ったのだろう







 『そういえば 鬼眼は?』

 「え?」


  言われてみれば 狂がいない


 「まさか…一人で躯を取り戻しに行ったなんてこと、ないよね?」

 『まさかーそんなこと…』



  そこまで言って二人で黙ってしまう

  



  ・・・・・・・・・・・・・。









  すごく有り得るわ…!









 「もう…せっかちなんだから…」

 『行く?』

 「当然でしょ、たぶんまだ遠くにはいってないと思うから」


  
  はそう言うとみんなに気付かれないように走り出した














 「あら?こっちから狂の気配がしたと思ったのだけど…」

 『確かにしたね、でもこっちは反対方向だよ



  森に入るとすぐに狂の気配がつかめた

  そのまま気配を追って走ること数分

  一向に狂の姿は見えない

  ただ同じ景色が続いているだけ



  このとき早矢は気付いた







   が方向音痴だということに





 「そんなはずないないわ、だって確かにこっちから狂の気配がしたもの…!」

 『じゃあ何で鬼眼はいないんだろうね?』

 「そ、それは…!」

 『素直に自分は方向音痴だってこと認めたら?』

 「うう…だからね?」

 『はあ…』

 「溜め息つかないで下さい…!」
      




  

  



 「やっと見つけましたよ 様」



  静かな声が森に響いた

  私も早矢も声がした方に目を向ける


  私に気付かれずに こんな近くまで来ていたなんて…!


 「あなた達は…」


  そこには  数十人はいるであろう人

  仮面を被り 顔はよく分からないが

  先程村正を襲った刺客とどことなく容貌が似ている


   
 「壬生、一族」


  の漆黒の瞳が細くなる


 
 「一体何の様かしら?」

 「あなたを壬生の地へ連れ戻すよう言い付かっております」

 「…イヤだと言ったら?」

 

  男たちが一斉に武器を懐から取り出す

  気付けばは周りを囲まれていた

 

 
 「力づくでも連れ戻せ、と」

 「へーえ…」

 「あなた一人で我らの相手ができますか?」

 「できるわ、だってあなた達が束になったって五曜星一人の足下にも及ばないもの」

 「…何ですって?」

 「あなた達に負ける私だと思っているの?随分見くびられたものね」



  はそう言って薄紅色の扇をパチッと開いた

  

  それが合図だったかのように 

  無数の影がに襲いかかる




 『…手伝おうか?』

 「私一人で充分よ」

 『それもそうだね』



  周りに風が集まる




 「私にはまだやるべきことがあるの、護りたいものが、あるのよ」




  だからね

  今 帰るわけにもいかないし

  
  死ぬわけにもいかないのよ






 「さあ私を楽しませてくれるかしら?」



  そう言って 地面を蹴る



  風が 舞った




  






 『弱いなあ…』



  手は出すな と言われたので木の枝に止まって下の様子を見る

  さっき村正を狙っていた刺客よりは強いと思うけれど

  あれじゃあの言う通り五曜星一人の足下にも及ばない


   扇によって生み出された風が次々と影を倒していく

  がまるで舞を踊っているように扇を振るう

  だからなのかもしれない

  行動が読めないのだ の闘い方は

  次に何を仕掛けてくるのか 分からない

  その舞に翻弄されてしまう



 『あ』



  影の一人がの扇を弾いた

  しかしは慌てずに 腰に差してあった脇差を抜く

  余裕からか「あーあ」と言ったのが聞こえた

  完全に楽しんでるね この状況を











 「さあ、これで終わりにしようか」


  刀を前に出して 目を瞑る

  風が 刀の周りに集まった



 「私に力を貸してくれる?」


  問いに答えるように

  風が私の頬を撫でた



  ありがとう と私は薄くわらって

  刀を 構えた

 
  

 「破邪の風よ、この太刀に宿れ……風破斬!」


  

  穏やかな風が 流れた

  一瞬の静寂が 流れた






 「ぎゃああああああああ!」







  四肢がバラバラになって 崩れ落ちる影

  血が地面を濡らす

  


 「″みずち″のオリジナル版ってところかしら」



  昔 村正に剣術を習う時に

  狂と同じように無明神風流を習いたいって言ったけれど

  聞き入れてくれなかったことがある


  悔しくて

  村正や狂が放った″みずち″を見て

  見よう見まねで似たような技を作った


  それが 風破斬




  村正に初めて見せたときの顔が今でも忘れられないわ…!









 『お疲れ』

 

  早矢が肩に止まった


 「うん、まさかこんなに早く私のところに来るとは思わなかった」

 『行動が早いよね…この分だと鬼眼のところにも来てるかもしれない』

 「有り得るわね、早く狂を探さないと…」







  ドォォォォォン


  



  
   
  
  音が聞こえた


  気が倒れる音

  鳥が逃げる音




  技と技がぶつかりあう音が
  






 「な、何…!?」

 『この気配…』

 「……っ!」






  近くに狂の気を感じる

  村正の気も感じる


  それとは 別に

  もう一つ

  懐かしい 気を感じた






 「辰伶…?」










  水の薫りが した














 

  私には 

  まだ

  やるべきことがある

  護るべき人がいるの



  そのためなら

  命だって掛けられる


 

  でも

  まさか

  あなたまで動き出すなんて





  水の薫りがする







  あなたが来た証拠












 
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