千の風 第17話
開けられたその瞳は 深紅の色だった
千 の 風
『鬼眼…!!』
「き…狂はん…!?」
「狂さん…!!」
「狂ォ…」
鬼眼の狂が 再び現れた
あの体の中で何があったのだろう
そして
先程の信長を斃せる絶交のチャンスを寸前で止めてしまったのなぜなのか
「やはり…のことになると熱くなるんですね…」
「……」
「千人もの人を斬ってきたあなたが昔から大切にしてきた女性ですからねぇ…」
「……」
「だから…」
アキラはニヤリと笑う
「尚更、返したくないですよ―…」
氷のように 冷たい笑みを見せる
「アキラ…」
狂の体から闘気が一気に膨れ上がった
「テメェ…上等じゃねぇか…!!」
紅い瞳が より一層輝く
「狂さん…」
その様子を見て幸村は呟いた
どうしてなんだろう
信長との永き死闘ですでに狂さんには闘う気力も体力もないはず
それなのに
どうしてあの爛爛と輝く紅い鬼の眼を見ていると
あの関ヶ原の時と同じような恐怖感にかられる?
アキラさんの言う通りのことだから…?
それとも強い奴に会った時の悲しき侍の性なのか―…
「―ようやく本気になったようですね、いいでしょう…お相手させて頂きますよ」
クスクスと笑うアキラに冷気が集まる
周りのモノ すべてが 凍っていく
パキ パキ と音をたてて
これが四聖天 アキラの真の力―…
「狂…今ならまだ間に合います…今度こそ私たち四聖天とともに天下をこの手に握りましょう―!!」
『絶対無敵』の自信とともに 狂と四人で駆け抜けていた あの頃のように
少し期待していた
もう一度 狂が自分の元に戻ってくると
もう一度 あの頃に戻れることを
でも
狂の口から出てきた言葉は
「…かんけーねぇな…」
その期待を 打ち砕くものだった
「…天下なんて興味ねぇ…オレが欲しいのはただ一つ―最強の称号だけだ」
アキラを見据えて はっきりと言う狂
「…じゃああの時言ったことは―ウソだって言うのか…!?あの時―…」
『この世で二番目に強え漢にしてやるぜ―…』
あの時 救われたから 今の自分がいるのに
あの言葉が あったから 今の自分があるのに
「…言ったじゃねぇかよ…そう言ったじゃねぇかよ!!狂―!!」
アキラの口調が変わった
「……」
「ふざけんなよ!!それで納得しろっていうのか…!?ざけんなよ!?
お前を信じてついていったオレを裏切りやがって…許せねぇ!!殺してやる―…!!」
ウ ラ ギ ラ レ タ オ レ ノ キ モ チ ガ ワ カ ル ?
押し殺していた感情を 一気に吐き出す
普段大人びていても
その姿は 少年そのもの
もう抑えられない
コ ロ シ テ ヤ ル … ! !
「ちょっと待った」
ゴオオオオオオオオオ
「…っ!!」
「うわあ…!!」
「何だ…!?」
『!!』
強い風に 全員が目を瞑る
「狂は 殺させないよ」
聞き覚えのある 声
その声に驚く
狂の前に凛として立っている少女
自分が今まで抱きかかえていた少女が 狂を護るようにして立っている
「…」
「…お前…」
アキラと狂が驚いた声を出す
「目を、覚ましたんですか…?」
「まあね、少し時間がかかったけど」
・・・・・・?
そう言って笑ったの表情に 少し違和感を覚える
狂もそれは同じなようで 眉間に皺が寄っている
『何やってるの…?』
いつのまに姿を変えたのか
銀色の鳥がの肩に止まる
「別に?面白そうだから…それより」
瞳の色が 少し 変わった 気がした
「久しぶりだね、信長」
いつのまに背後に回ったのか
アキラの首にピッタリと刀をつけている信長に は話し掛ける
「四年ぶり…だな、」
信長も二ヤリと笑う
「そうだね、でも昔話をする前にその刀を下ろしてくれる?」
「そうはいかぬ、アジラには狂の躯を渡してもらわねばならぬからな」
「冗談、そんなボロボロの体でアキラに勝てると思ってるの?」
「何だと…」
「今のお前じゃ、誰にも勝てないって言ってるの」
「そう…誰にも…ね」
「…?」
いつもの雰囲気と違う とアキラは感じた
普段のの気が 感じられない
でも 確かに覚えのある この感じ
そう これは
この 感じは
「ならば確かめてみようではないか―!!天魔・骸手!!!」
信長の技がアキラに襲いかかる
「あの距離じゃ絶対よけらんねぇ!!まともにくらうぞ!!」
「楽勝だろ、アキラ」
その笑い方が ある人物と被る
目を見開いた
ああ あなただったんですか
「私を誰だと思ってるんですか?」
アキラは静かに笑う
パ キ ン
「な…!?」
信長の周りすべてが凍っていく
「くっ…!!」
「だからが言ったでしょう?その傷だらけの体では、私に勝てないと…」
「すべてを無へ―…」
ド ス ッ
手応えはあった
けれど 攻撃を受けたのは信長ではなく
「―まだ…終わってはいませんよ アジラ―」
十二神将が一人 シンダラ
「シンダラ…!!」
「…まだ生きていたんですか」
「私だけではありません…」
シンダラがふと門に目を向ける
「あ…」
「ああ!!」
「狂…みんな―…よかったあ みんな…もう会えないかと思った―…!!」
門から出てきたのは ぐったりとしたアンテラを支えたゆや
「ゆやはん!!無事だったんか!!」
ゆやの無事な姿を見て 素直に安心する紅虎
「テメェら…アキラに殺されたんじゃなかったのかよ?」
「…それは―…」
『いやあ〜んシンダラァ 怖いよぉ〜!!』
『く…!!』
シンダラとアンテラが凍っていく
その勢いは 止まらない
『あ…ああ…』
ゆやは動かない
いや 動けなかった
体の震えが止まらなかった
『し…椎名ゆやさん!早くお逃げなさい…アジラの消えた方向へ行けば、紅蓮浄土から抜けられるはず…
今がチャンスです、紅蓮浄土でグズグズしていると何が起こるか分りません、はやく―…」
ガシャァン
『お、おねえちゃん…』
ゆやは重い石を持ち上げ 氷に向かって投げ付けた
『か…勘違いしないでよ…!!この貸しはあとでたんまり利息をつけて返してもらうからね!!』
『あなた…』
シンダラは目を見開く
しかし
凍る速度は変わらなかった
むしろ 速くなっている気さえした
『ど、どうしよう…止まらない…!!』
タ ス ケ テ ア ゲ ヨ ウ カ ?
『え…』
頭に響く 不思議な声
この声が合図だったかのように
風が 舞い上がる
パ リ ィ ン
『こ、氷が割れた…!!』
「―その風のおかげで私達は氷から抜けだせたの…」
シンダラに抱き着きながらアンテラは言う
「風って…」
風を 操ることができると いったら
に視線が集まる
しかしは何も言わず ただ笑みを深めるだけ
「シンダラ…」
「…申し訳ありません、鬼眼の狂の躯はすでにアジラの手に―…」
「アキラ」
視線を向けてみると が漆黒の瞳でこちらを見ていた
「何です?」
「…狂の躯、ヤツ等に奪われないようにしろよ」
「……」
「信長が失敗したと分かったら、必ず取り戻しに来るから」
「…なぜ、それを私に?」
「別に?、俺としては躯が狂の手に渡ろうがお前に渡ろうががどちらでもいい」
「……」
「ただヤツ等には渡したくない、それだけだ」
「…つまり、今のその姿も行動も、すべて壬生に対する嫌がらせということ、ですか?」
「当たり前」
そうやって笑うあなたに 懐かしさを覚えた
またあなたと 行動を共にする時が くればいいのに と思う
「…クス、変わっていませんね、その性格」
「お前は変わったけどな…」
今までと比にならないくらいの冷気がアキラを包み込む
「アキラ、過去に縛られるな」
「…?」
「お前の狂に対する゛思い゛や゛信念゛がどれ程強いか分かる、
その思いが強い限り、お前はどこまでも狂のために強くなれるだろう」
「……」
「でもそれと同時にその思いがカベとなり弱点にもなるということを忘れるな」
「何を言って…」
「過去に縛られるな、お前が得たその゛強さ゛は間違いなく゛本物゛なんだから」
「意味が、分からいのですが…」
「あー気にすんな、これは俺の忠告というか予言というか勘だから」
「アキラ…待ちやがれ!!」
パ リ ィ ィ ン
「俺の今の言葉、覚えておけよ?」
「…肝に命じておきましょう」
「あーそれとお前、にキスしたよな?それも二回も」
「え!?」
「今度会ったときが楽しみだな」
「……」
氷のかけらを残して アキラは姿を消した
かけらが たた 辺りに ちらばるだけ
何を言っているのか分からなかった
過去に縛られるな?
私は縛られてなんかいませんよ
ただ
裏切り者が許せないだけ
でも
あなたがあまりにも真剣な瞳で言うから
覚えておきましょうか
次に会ったときが怖いですけれど
とりあえず 今は
躯を奪えたことですし
狂が自分を追い求めてくれれば それでいい
「い、いっちまいよったんか…なんちゅうこっちゃ…せっかくここまでやってきたのに…
狂はんの躯がもうあらへんなんて―…!!」
「……」
「と…とりあえずみんなケガの手当てを!さっ、早く傷を見せて…」
「まだ終わりじゃないよ」
「え…?」
「ほら」
の指した方向を見て ゆやははっと気付く
狂と信長がお互いに向き合って 死合おうとしていることに
求めた体はすでになく 体力も気力もとうに限界を越えているはずなのに
二人の姿に威圧感を覚える
本当にこれが
半死半生の人間なのか
「バカを超えた大バカ野郎だな…」
「信長様…いったんお引き下さい、そのお体では…」
「よいわ…シンダラよ」
シンダラの言葉を手で制す
「どうやらこの闘いのせいで体の限界が早まったようだ…狂の躯の入手が遅れるならば
せめてコイツだけでも斃しておかねば…マコラ…そしてシャトラに伝えよ―
万一の場合は すべて予定通り…と」
「…は!」
『…次の一撃ですべてが終わるんじゃない?』
「まあ、そうだろうね」
『…どちらが勝つかわかってるんでしょ?』
「誰に向かって言ってるわけ」
は ただ妖艶に微笑んだ
「楽しかったぜ?今までよ…」
「フ…それはお互い様だ」
信長はそう言いながら首にかけてあったロザリオを取って
落とした
それと同時に 二人の漢が 動き出す
ロザリオが ゆっくりと 落ちていった
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