千の風 第16話




  鬼 が 眼 を 覚 ま す

















          






                            千 の 風 
 




















 「あなたも…聞いたでしょう…?神風の―…清饗を…!!」

 「ぬおおおおお!!」


  辺り一面を優しい風が吹き抜けたかと思うと

  信長は口から血を吐いて倒れた


 「ごはあ!!」



  狂の『みずち』と比べ 暖かさが感じられる京四郎の技

  死の瞬間まで心地よい神風に抱かれる ある意味優しい技

  しかし 

  その後に訪れる苦痛と恐怖は冷酷そのもの






  これが 本当の無明神風流






 「う…ぐ…京四郎…キ…サマ…殺してやる…!!キサマも…狂も!!このオレの手で!!」

 「…信長さん…あなたは怨念の分だけ昔よりもはるかに強くなった…―でも」


  京四郎は刀を信長に向ける


  

 「鬼眼の狂はもっと強い…―狂を倒せるのはこのボクだけなんです…もう永眠なさい…
  あなたの時代は終わったんですよ」





 「さようなら…信長さん―…」



  刀を構え 首をめがけて一気に降り下ろした








  

  ド ク ン












   
  ― 人 殺 し ―













  頭の中で 誰かが叫ぶ


  叫んでいるのは 誰?











 「あ…く…あ…あ…」


  京四郎の手が止まった

  信長の首を斬り落とす 寸前のところで

  全身に汗をかき 刀を持つその手は震えている








 『どうした…?昔を思い出してビビったのか?…このコシ抜けが!!』


  自分の中にいるもう一人の人格 狂が囁く

  まるで近くにいるように その声は鮮明に聞こえる






 「な…!?」

 『今のキサマには信長どころか誰一人殺すことなんざできやしねぇだろ?この偽善者が…!!』



  聞かないように耳を塞いでも その声は頭に直接響く






 「き、京四郎はん!?いきなり一人でどないしたんや!?」 

 


  紅虎の声が 微かに聞こえる





 
  『「信じてくれる?」…だと!?
  お前が今までやってきたことを知ってもだけは信じてくれるとでも思ってんのか!?』







 『…うん…信じるよ…私…京四郎も狂も信じてるから』


  の声が 優しい声が 頭に響く





  キ ミ ダ ケ ハ  ボ ク ノ コ ト ヲ  シ ン ジ テ イ テ





 『すべてを知ったら、アイツはどうするだろうな?』

 「やめ…ろ……は」

 『お前にの名を口にする資格はねぇ…!!゛壬生″の名を捨てた今のキサマには人を殺せるだけの
  度胸も強さもねぇ!!信長を殺すのはこのオレだ―!!』


 「やめろ…」

 『さっさとオレを表に出しやがれ―!!』

 「やめろ!やめろ!!やめろぉ―!!!」


  京四郎の叫び声が 樹海に 響く






  
 「京四郎さん!?」

 「ど…どないしたんや!?動かなくなってしもうた…」




  京四郎の中で何が起きている?

  京四郎と狂

  二人の゛KYO ゛の主導権争いが起こっているのか…?






  その様子を見て 信長は無気味に笑う




 「キサマの強さは本物だ、京四郎…それは認めよう、だが…だからこそ生かしておけぬ」



  あれだけの傷を負っていながら まだこれだけの力が残っているのか



 「狂もろともにあの世へいけぃ―!!」



  刀を 降り下ろす

   

  その勢い

  その力

  その 強さ



  織田上総介信長 その体は 不死身か 



   





 「よ…けや京四郎はん…京四郎はーん!!」
   

   
 






  
  ギギィ ギギ ギ ギギギ ギ










  重い扉が開く音に 全員の動きが止まる




 「じ…地獄門が…開いた…!!」




  紅蓮浄土への入り口

  難攻不落の門

  その゛時獄門″がどうして開く?




 「の…信長様…」





  門から出てきたのは 十二神将の一人 ビカラだった







 「あいつ…すでに紅蓮浄土に入っていたのか!?」

 「…まさか―ビカラたちは狂さんの躯をすでに確保したのか…?」

 「―な…なんやて―!?」

 『……』





 「ビカラ…どうやらオレが与えた使命をを果たしたようだな」

 「……」

 「フ…!!これで新たな体が手に入った…!!この場で京四郎を斃せばもはやオレの覇道を
  阻む者はいない!!ハハハハ!!」

 「あ…あ…」





  パ キ ン 





  ビカラの体が 音をたてて凍っていく




   

 

 「何!?」

 「な…!?」





  パキ パキ パキ …


  



 「ああああ…」






  パ キ ィ ン 








  本当に一瞬の出来事

  瞬く間に ビカラは完全に凍ってしまった

   



 「…いきなり凍ってしまいよった…いったい紅蓮浄土で何があったんや!?」

  




 「私がやったんですよ―…」



  門から聞き覚えのある声 がした



 「十二神将三人相手は…なかなか楽しめましたよ…」


   
  姿を現した その人物


  
 「お…お前は…」



  



 「まあ今頃は仲良く三途の川でも渡ってるんじゃないですか?」




   その姿は 十二神将が一人 アジラ

   いや 四聖天のアキラだった





 「…お久しぶりですねみなさん…」 

 「ア…アキラ」

 「おや…狂かな?それとも京四郎さんとやらかな、どうしたんですか、そのみっともない姿は…
  まさか信長ごときにやられてしまったわけではないでしょう?」

 
  動こうとしない狂…京四郎の姿を見て アキラはクスクスと笑う




 「アジラ…きさま…」

 「…一つ、景気づけにビッグニュースをお知らせしましょうか」

 「ビ…ビッグニュース…!?…っ!!」

 『!!』

 
  村はそこまで言ってアキラが抱きかかえているあるモノに気付く

  早矢もそれに気付き 殺気が一気に膨らむ





 「狂の躯と…はこの…四聖天のアキラが頂きました―…」

 「な、何やて…!?」

 「―おや聞こえませんでしたか?ですから…鬼眼の狂の躯と
  この四聖天のアキラが頂いたと言ったんです」


  アキラは表情を変えず 淡々と述べる
  
  その腕にはが大切そうに抱きかかえられていた


  は動かない

  固く眼を閉ざし

  攫われた時のまま そこにいた


  黒い髪が 風で 微かに なびく




 『!?』

 「はん…!!でもゆやはんは…!?」

 「ああ…ゆやさんですか?心配しなくても彼女の命は奪っていませんよ…
  そう 彼女の命を奪っても奪はなくても 私には関係のないこと…
  本当に欲しいモノは手に入りましたから」


  アキラはそう言ってを抱きしめる腕に力をこめる

  そして 柔らかな頬に 口付けた

  愛しそうに

  愛しそうに








 『ふざけんな…!!』







  早矢の低い声が響く

  風が勢いよく舞い上がる
   
  まるで早矢の怒りを表しているかのように







 『を…返してもらおうか』

 「そうはいきません、この四年間ずっと願ってたことですから…」





 「は私がもらいます」





  口の端をつり上げて アキラは笑う





 『キ、キサマ…!!…っ』












  早矢が動くよりも先に行動した者がいた

  落ちた刀を素早く拾い上げ アキラに襲いかかる










 「やはりあなたでしたか…」



  攻撃を難無くよけて アキラは言う




 






 「アキラ…キサマ…つまんねぇ冗談言ってんじゃねぇぞ!?」






  開けられたその瞳は 黒ではなく 血のような紅だった










  鬼 が 目 覚 め る 












   
 



   TOP BACK NEXT