千の風 第13話
どちらを選ぶ?
そんなの決まってるじゃない
千 の 風
「ゆやさん!大丈夫ですか?」
「ア、アキラさん…?」
そっと目を開けてみると
心配そうな顔をしたアキラさんがいた
「大丈夫ですか?かなりうなされてましたけど…」
今のは夢?
「…つらい過去を思い出していたんですね…『黄泉平坂』は昔の記憶を生々しく蘇らす場所ですから」
「え…!?」
「―きれいな花でしょう…?でもその正体は…」
アキラは美しく咲いている一本の花を取ってゆやに見せる
「ヶシの花…阿片の元といった方が分かりやすいかな…その中でも特別な花で
花粉を少しでも吸い込んだら最後、感覚を狂わされ深層心理の記憶を幻覚として見続ける…
結果、この美しい花畑を永遠に彷徨い続けるか幻覚によって精神崩壊するか…
どちらにしろ『黄泉平坂」で野垂れ死ぬしかないんですよ…」
「そ、そんな…」
「現にほら…美しい花たちの下を見て…」
「!!」
アキラに言われた通り ゆやは下を見た
すると
そこには
「き…きゃあああ!!人骨だらけ…!!」
まるで養分としていたかのように
花の下には無数の人骨があった
「見かけの美しさで人を寄せつけ喰い殺し、それを養分としてさらに美しく咲きほこる…
『黄泉平坂』とはそういうところなんですよ」
「ア…アキラさんはどうして平気なんですか?」
「私は目がこの通りですから幻覚も見えませんし…
それに―ここのことは昔ある人から聞いてましたから」
「え…!?それってまさか…」
「ちゃん!!」
ゆやの声を遮るかのように
アンテラの叫び声が辺りに響いた
「え…?」
暫し呆然とするアキラ
「もここにいるのですか…?」
「え?あ、はい…私と一緒に人質に…ってアキラさん!?」
ゆやがすべてを言い終わる前に アキラは走り出した
「アンテラ?どうしました?」
「シンダラァ!!ちゃんが起きないの!!」
アンテラのすぐ側では倒れていた
起きる気配は ない
固く目を閉ざしたまま ピクリとも動かない
先程のアキラの言葉が本当なら ケシの花の花粉を吸い過ぎたのだろうか
「?大丈夫ですか…」
そう言って手を差しのばそうとしたとき
パシッ
乾いた音をたてて その手は振払われた
「に触らないで下さい」
シンダラの手を振払ったのはアキラ
微かな殺気を放ち
その瞳は閉じられているが射貫くような視線でシンダラを見つめている
「アジラ…」
「は私が連れて行きます」
アキラはそう言ってを抱き上げる
「アジラ…助けて頂いたことは感謝します―ですが鬼眼の狂討伐が役目のはずのあなたが
どうしてこんなところにいるのですか?…いえそれよりも…クビラが死んだ時
あなたはどこにいたんですか…?」
「クビラさんがどうかなさったんですか?樹海に迷ってしまって気がついたら
私もこの近くにいたもので…」
微笑むアキラ
しかし
その笑みは氷のように冷たかった
「急いで黄泉平坂を出ましょう、このままではが危険です
できるだけ花粉を吸わないで布を口にあててください」
「お…兄…ちゃ…」
「…?」
歩き出そうとしたそのとき
の口から微かな声が漏れる
その目には涙が溢れていた
お兄ちゃん? のことだろうか
「辛い…過去を思い出しているのですか…?」
がこの場所へ近付かせなかったのはその為なのだろうか
「…」
アキラは抱きしめる腕に力を込めた
あ な た は 今 ど ん な 夢 を 見 て い る の で す か ?
「ど…して…こんなことするのよぉっ!!」
涙が止まらない
『自分の兄を犠牲にしてまでも?』
時人の言った言葉の意味がやっと分かった
私が 狂の側にいられたのは
私が 笑っていられたのは
私が 自由になれたのは
みんな のおかげだった
私は 一番大事な人を犠牲にしていた
「ひっ…く…ふぇっ…」
こんな自由なんて いらない
「こん…なの…嫌だよぉ…」
あなたがいない自由なんて いらない
「っ…」
あなたがいないと 例え自由になれても 鎖に繋がれた鳥と同じ
涙が
止まらない
もう
涙の海に
溺れてしまおうか
「っ…!!」
「え…?」
懐かしい声がした
ふと顔をあげてみる
涙で視界がぼやけてよく見えない
でも
「…!!大丈夫か!?」
よく見れば
自分と同じ顔
同じ漆黒の瞳
黒い髪
「…?」
何でここにいるの?と聞こうとする前に 私は抱きしめられた
存在を確認するように 力強く
「良かった…!!お前が…黄泉平坂にいるのが見えて、急いで夢を渡って来たんだ…
ここは…人の深層心理にある記憶を蘇らす場所だから…」
ああ…だからと吹雪が出てきたのか…
うまく働かない頭でぼんやると思う
「また…が壊れるかと思ったんだ…」
「母さんと望が死んだ夢を、見た時と同じように」
の言葉に体が揺れる
アア アノコロノ キオクガ ヨミガエル―…
私はぎりっと歯を噛んで
震える手をの背中にそっと回した
「大丈夫…私は大丈夫だよ…」
「本当、に…?」
「うん…あの時のことは見てないから…でもその代わりに私が見た過去は…」
『ス コ シ デ モ ミ ブ ヲ デ タ ラ』
『コ ノ ミ ヲ ク イ チ ギ ッ テ デ テ ク ル ヨ ウ ニ』
ぎゅっと腕に力を込める
「が…私を自由にする代わりに…自分が壬生に残るって言ってるところだった…」
「それでもそ自分が信じられないのなら…」
「水龍を自分の体の中に入れてもいいって吹雪に言ってるところだったの…!!」
「え…?」
の体が震える
私はそっとから離れて
真直ぐに自分と同じ漆黒の瞳を見つめた
「何でこんなことしたの…?」
涙が頬をつたう
「こんなことしたって…が犠牲になってまで手に入れた自由なんて」
体が震える
「いらないよ…!?」
声が震える
「私達は二人で一人なんだよ…!?がいないと…私は自由になれないの…!!」
どちらかが欠けてしまえば
空には飛べない
私達は
片翼しかないから
私達は
二人で一人だから
「そんなこと…分かってる…でも」
はそっと私の頬に触れる
その手は微かに震えていた
「でも…このままじゃずっと壬生という鎖に繋がれたままだ…だから…!!」
そんなもの
私はの手に自分のそれを合わせる
「そんなもの断ち切ればいい」
「え…?」
「私がの鎖を断ち切るわ」
「私がを自由にする 助ける」
『…もし、と鬼の子のどちらかを選ばなくてならなくなった時、君はどちらを選ぶの…?…』
本当は 時人の言葉を微かに風は運んできてくれた
それから ずっと考えないようにしていたけれど
「もう誰も犠牲になんかさせないし 死なせないよ」
は涙を流しながら 笑った
やっと
答えが出たの
どちらを選ぶ?
そんなの決まってるじゃない
私はどちらも選ぶよ
どちらも
大切だから
どちらも
大好きだから
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