千の風 第12話


   
  あなたは私の半身

  あなたは私の片翼

   
  私達は二人で一人

  どちらかが欠けてしまうと

  空も飛べないし

  自由にもなれない


  だから


  どちらかが犠牲になって

  どちらかが自由になるなんて

   

  私は許さない


   

   


   

      





















                              千 の 風 



   

   

   














 「どうしてや狂はん!!なんで二人を護らなかったんや!あんさんそれでも男か―!?
  二人がつれてかれんのボーッと見とったんか!?」


  樹海に紅虎の怒声が響く

  二人が攫われたと聞いた紅虎は狂を責め続けた

  そして

  何故側を離れてしまったのかと悔やんだ


   
 「そんなんで…何が最強の人斬りや!!」

 「……」


  狂は黙ったまま答えない

  それどころか

  胸倉を掴む紅虎の手を離し 森の奥へ行ってしまった

   
 「狂はん!!」


    
  紅虎の声は狂の耳には入らなかった


    

    




  適当な木の下で膝をたてて座る

  目に浮かぶのは

  シンダラに抱きかかえられたの姿

   
  どうして側を離れたのだろう

  こんなに近くにいたのに

  何も出来なかった


    
  狂はぎりっと歯を噛んだ




   

 「あらあらめずらしく元気がないじゃない…こんな狂さん見るの初めてだわ」


    
  黒い髪をなびかせながら阿国はスッと現れる

   


 「…何しにきやがった…」

 「あーら冷たいのは相変わらずね―治療に決まってるでしょう?
  こんな美人に手当てしてもらえるなんてありがたいと思いなさいな…」


  阿国はそう言いながら座り

  白い布を狂の傷口にあてる


 「あらあらこんなに斬られちゃって…立っていられるのがホント不思議なくらい…
  こんなになってもガマンしてたなんて…―よっぽどくやしかったのね
  あの二人があなたの目の前から連れ去られてしまったのが…」

 「……」


  狂は黙ったまま答えない



   

 「でもどちらかと言えば…」




 
 「さんが連れていかれたのが悔しいのでしょう…?」




    

 「あの人―…さんがそんなに大事…?」



   


 「あなたにとって…さんはどんな存在なのかしら…?」




  阿国の艶のある声が耳に響く

   

     



  大事だからこそ

  胸に残るのは 

  後悔の念








    






 「…何なのここは」

    
   は辺りを見回した

   周りは深い霧に包まれ何も見えない

 
 「さっきまでみんなと一緒だったのに…」


   
   ゆやと共に十二神将に攫われて

   目を開けたときは一面の花畑にいた

   シンダラの話でここが紅蓮浄土へと続く唯一の道『黄泉平坂』だと分かった

   歩いても歩いても同じ場所に戻ってしまう

   『″黄泉平坂″は現世にあって現世にあらず 一度入ったら最後』







   『地獄への一本道』



   
    
   昔から樹海に伝わる歌を思い出す








   昔から樹海のことはよくから聞いていたけど

   黄泉平坂のことだけはあまり教えてくれなかった

   『行ってみたい』と言っても

   『つらいことを思い出させる場所だからダメ』

   と言って相手にしてくれなかった

   それでもしつこく頼めば



  『いい加減にしろよ?』


   とそれは綺麗な笑顔で返されるから

   とうとう黄泉平坂のことは分からずじまいだった

    

   一体ここはどうなっているのだろう

    

   そう思案しながら歩いていると聞き覚えのある声が聞こえてきた
   



  …大変…!!』
   
 「え…?」


   

  声がした方を向けばそこにいたのは 私

  そして

  その前には




 『また夢でも見たのか?』


    
  ″私″を見て優しく笑っている 双子の兄



    
 「…?」
    


    
  『黄泉平坂』って一体どんな所なの?










    

   



 「正直言って…驚きましたよ」 

 「何が?」

 「あなたが吹雪に…『夢知らせ』を言うようになるなんて」 

 「ああ…そのこと」  


    
    
  家の庭で風を感じいたた俺にひしぎは話し掛けた

  俺は後ろを振り向かず そのまま前を向いて風と戯れる

    

    
 「…のため、ですか」

 「まあそんなところ、じゃなきゃあんなモッサリに誰が夢を教えるか」

 「……」

 「のためだったら何でもするよ」



  黒い髪が風に揺れる


   
   
 「『神の一族』ですら敵にするさ」 



   
  前を向いているための表情は分からない



 「必ず自由にしてやる」



  すっと後ろを振り向いたの漆黒の瞳は


 
 「例え…この身を犠牲にしても」



  決意の色が秘められていた
    


    

  無言の空気が辺りを包む

  ただ 

  聞こえるのは

  に戯れる風の音だけ



        
 「…あなたは…」



  ひしぎが何か言葉を発しようとしたそのとき



 「!?」

    
  
  視界が揺れた




 「…っ…」

 「?どうし―……」

   
    

  そのままガクッと膝をつく

  ひしぎの声が耳に入ってこない


   


  頭 に 映 像 が 流 れ る

   

    


  その映像に 






  血 の 気 が 引 く
 

    

 「!?」

   
 
    
  俺はひしぎの止める声も聞かずに走り出した




 「何で…!」

    

   何で が 『黄泉平坂」に いる?
    













    

    

  これは過去?


  
   


 『どうしようっ…狂が…』   

 『…狂が?』

 『信長に殺される夢を見たの…!!』




  そうだ 

  これは過去

  私が外に出る前の 



   
 『…殺される?』

 『うん…狂と信長が闘ってて…』
   
 『……』

 『…血を出して倒れちゃうの…それで…』

 『それで?』

 『信長が刀を降り下ろす…ところで…目が覚めた…』




    

  その夢を見たから 

  私は今ここにいる


   


 『早くこのことを知らせなきゃ…』


    

  でも外に出してもらえない

  吹雪が 

  それを承知しなかったから


   


 『狂が死んじゃう…っ京四郎も…っ!!』


    

  すごく必死だった

  もう大切な人が死ぬのは見たくなかったから

    


  また



    
  大切な人が死ぬ夢を見てしまったから 
   
    
      


  、落ち着いて』

 『っでも…!!』

 『いいから…もう少し…眠りなさい』

 『…っ…』


 
      
    
  そう 

  確か 

  この後に

  が外に出てもいいと 

  吹雪から許可されたと 

  言いに来たんだっけ

  自分は面倒臭いいから 

  お前だけでも行ってこいと 

  そう言いにきた



  でも 

  今思えば



  吹雪がそう簡単に承知するだろうか

  四年前以来 

  外に出そうともしなかったのに

  急に許可するなんておかしい

    



  どうして今まで気付かなかったんだろう

  あの後 

  私が眠った後 

  何が起きていたの?



    




  視 界 が 変 わ っ た




   




  『…何だと?』

 『だから、を外に出せって言ってるの』




  と吹雪?



  『お前達の我侭は四年前に聞いたはずだが…?』

 『まあ確かに、でもさ、が狂が死ぬような夢を見てさ』
   
 『……』

 『助けに行きたいって言ってるんだよね』
 
 『……』

 『行かせてやってくれない?狂が死んだら…京四郎が死んだらお前等だって困るだろう?』



   

  ねえ  何言ってるの…?
  

   

 『…その夢は…確かなのか?』

 『さあ…どうだろうな…信長ごときに殺されるようなことなないと思うけど…
  万が一ってことがあるだろ?の『夢知らせ』は、必ず本当になる』
  
 『それで…お前は何が言いたい?』

 『を自由にしろ、そして、狂の側に行かせろ』

   

   
    


 『その代わり、俺はここに残って、今まで拒否し続けてきた『夢知らせ』を』





   
 『お前等に教えてやるよ』






  え……?





  『…ほう…随分な変わりようだな』

 『悪い話じゃないだろ?を自由にすれば、壬生の未来を教えてやるって言ってるんだから』
 
 『……』

 『俺は今まで通り外には出ない、どうしても俺が信じられないのなら』





 『この身に水龍を入れてもいいぜ?』




 『少しでも壬生を出たら』





 『この身を食いちぎって出てくるように』
   
 




  ス イ リ ュ ウ ?

   


 『ス コ シ デ モ ミ ブ ヲ デ タ ラ』






 『コ ノ ミ ヲ ク イ チ ギ ッ テ デ テ ク ル ヨ ウ ニ』




  の台詞が頭を回る
  

   


  
   
 『フッ…いいだろう…』

 『交渉成立、だな』


   


  嘘でしょう…?



   

  『この身を犠牲にしても、、お前だけは自由にしてみせる』





 
  目が熱くなる

  涙がこぼれる 

  止まらない



  
 「お…兄…ちゃ…っ」





  声が上手く出せない





 「ど…うし…て…」




  どうして そこまで 自分を 犠牲にするの? 








  『自分の兄を犠牲にしてまでも?』


 『の今の状態は僕のカードでいうと、この『吊るされた男』と同じ…』





  吊 る さ れ た 男



  そういう意味だったの?
 








 「こ…んなの…絶対にっ…許さないよぉ…っ!!」   









    
    






  私達は二人で一人

  どちらかが欠けてしまったら

  空も飛べないし

  自由にもなれない


  だから


  どちらかが犠牲になって

  どちらかが自由になるなんて

   

  私は許さない



  自由になるときは


  二人で一緒



   

  こんな自由なんて いらない

    
    
      
   










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