千の風 第10話
ねえ お願いだから
もっと自分を大事にして
もっと自分の体のことを考えて
もう
これ以上
私を心配させないで
千 の 風
「見せてやるよ―…『鬼眼の狂』の真の恐ろしさってやつを…」
狂の背中に傷の『紅十字』が前にも増してはっきりと浮き出る
ビカラと闘い
先程まで瀕死で立っているのもやっとのはずだったのに
今の狂の眼は闘気でギラギラと光っていた
まったく別人のようなケタ違いの殺気に体の震えが止まらない
これが
本当の『鬼眼の狂』…?
サスケはその姿に冷や汗をかき
早矢にいたってはそれを冷静に見つめていた
「おら!!かかってこいや!!そのデヶェ図体バラバラにしてやるからよ!!
オラオラどうしたよ、今になって怖じ気づいたか?」
「…バカね、そんなわけないじゃない、ようやく『鬼眼の狂』と闘えるのが嬉しいのよ…
さあ―、続きを楽しみましょうよ!!」
ビカラはニヤッと笑い
腕につけていた武器を飛ばす
鋭い音をたてながらそれは狂に襲いかかった
しかし
パシッ
「「「「「!?」」」」」
「…何のつもりだ、早矢」
『悪いけど、鬼眼をここで死なせるわけにはいかないんだよね』
飛んできた武器を難無く素手で受け止めたのは
狂ではなく
銀色の瞳の少年
『戻って来るまであんたを護れってから頼まれてるんだよ
別にあんたが誰と闘おうが勝手だけど、自分には十分程度しか闘えないっていうハンデがあること
分かってる?その体、その傷でどうやって闘っていくつもり?』
「……」
早矢の言葉に狂は答えない
『今の鬼眼を見たら、たぶんは怒るだろうね、これ以上心配させないでくれる?』
そこまで早矢が言うと狂はニヤッと笑った
『なら、が戻って来るまでに終わらせればいいことだ』
『…知らないからね?』
「上等だ」
そして再びビカラと闘い始める狂
スピードとパワー
どれも今までの比ではないくらいに強い
「オレ様に勝とうなんざ一千万年はえぇんだよ!!」
「ぐはああ!!」
狂の剣が容赦なくビカラを斬り付ける
防ぎきれなかったビカラは血を流し ガクッと膝をついた
「ククク…ハァ−ッハハハハハ!!」
笑い声が樹海に響く
その姿は
まるで
鬼そのもの
「狂が…狂がこんなに強かったなんて…」
心臓が激しく鼓動している
冷や汗が止まらない
震えも止まらない
狂が怖い
いつも怖いけれど
普通に話しかけられるくらいの安心感はどこかあった
でも
今の狂はまるで別人
「あーあ、目が完全にイッちゃってるもんなあ…止めなくていいわけ?」
サスケはカツンと剣玉を鳴らしながら早矢を横目でちらっと見る
『…どうせ聞かないでしょ、あれじゃあビカラが死ぬまで止めないよ、
まあ唯一止められるのはなんじゃない?』
「…ねえちゃん?」
『そう、鬼眼にとっては特別だから、ね』
「ハアハア…さすが狂さん…やるわねv」
「そろそろ死にたくなったか?」
「冗談…!!こんな楽しい闘い…そう簡単にやめてたまるものですか!!
私のとっておきの技、見せてあげるv」
そう言ったビカラの周りに闘気が戻り始める
深い傷を負ってもまだこんなに力が残っているのか
『さすが十二神将』
「…次の一撃で勝負が決まる」
「とっておき…?そりゃあ楽しみだな…もしつまんねーようだったら」
狂は歯をギリッと噛む
「今度こそ殺すからな!!!」
「…来た」
「え?」
早矢がぼそっと呟いた瞬間
辺りを激しい風がかけ抜けた
「きゃあ!!」
「か、風!?」
いきなりの風にゆやとサスケが驚きを隠せない
「な、何よコレ…!?」
狂とビカラも一瞬動きが止まる
「…ちっ」
狂は舌打ちをした
それは
この風の正体が分かっているから
こんなことができるのは
風を
操ることができるのは
只一人だから
「死ぬかもしれないって聞いて慌てて来てみれば…何やってるの、狂」
奥から凛とした声が響く
「…」
そこにはが立っていた
走って来たからだろう
少し息が上がっている
「…真剣勝負に手出しは無用だ」
狂は紅い眼でを睨み付ける
「クビラとの闘いでの傷が癒えてないくせに何言ってるのよ、あなたの相手は別にいるでしょ」
はそう言いながら二人の間に入り ビカラと向き合った
その行動にビカラが怒鳴る
「ちょっと!!私と狂さんの闘いをジャマするつもり!?」
「別にジャマなんてするつもりはないよ?ただ…狂の代わりに私が相手してあげる」
はパチッっと薄紅色の扇を開き ビカラに向けた
「…何ですって?」
「…どういうつもりだ」
「…さっきも言った通り、狂、あなたの相手は他にいるはず…
今はクビラとの闘いで傷付いた体を少しでも休ませることが先決なんじゃないの?」
「関係ねぇな、闘いときに闘う…それだけだ」
狂の言葉には振り向く
その表情に
一瞬言葉を失した
振り向いたの顔は
憂いを帯びた表情で
「…狂…私はあなたを護るためにここいるの、その体で今『あの御方』と闘ったら只じゃすまない…」
今にも
「だから…」
泣き出しそうで
「お願い…これ以上私を心配させないで」
少し俯き
必死で涙を耐えているようだった
ねえ お願いだから
もっと自分を大切にして
「……」
狂はその様子をじっと見つめる
「言いたいことはそれだけかしら?だったらどきなさい、
狂さんを倒した後にあんたの相手をしてあげるから」
「そうはいかないわ、別に私が先でもいいでしょう?」
ビカラの言葉にパッと顔を上げ
先程と同じように凛とした声では言う
「それとも…私が相手じゃ不満?」
ゾクッ
寒気を感じる 笑み
「さん…!?」
普段の彼女からは考えられないその雰囲気
妖艶に微笑むその姿は
笑っているはずなのに
背中に冷たい汗が流れる
「…強い」
サスケはを見つめ ぼそっと呟いた
その額にはうっすらと汗が光っている
『当たり前でしょ?なにせは、四年前に鬼眼や四聖天と一緒に戦場を駆け抜けたのだから』
「ふふふ…そこまで言うのなら狂さんへの見せしめにあなたを殺してあげるわ」
そう言ってビカラはニヤッと笑った
「そう簡単にいくかしら?」
お互いに向き合う
二人の闘気が膨れ出した
「……」
その様子を黙って見ていた狂はに近付いた
「オイ、」
「何よ、ジャマしな……っ!!」
が言葉を全部話し終わる前に
狂は腕を引っ張った
よろける体を支え
手をの顎に固定した
「ちょっと狂…!?」
「…少し黙ってろ」
そして
そのまま
口付けた
「「「「!?」」」」
「…っ…」
先程のアキラのような
相手を求めるような深い口付け
狂は何度も角度を変えて
の柔らかい唇を味わった
舌を軽く絡ませ
口から漏れる息は甘い吐息となって出る
「…っ…ふ」
の体から力が抜けたのを確認してから
そっと狂は唇を離した
たった数秒間が
もう何時間も経ってしまったかのようにには感じられた
頭が痺れ
体に力が入らない
呼吸が乱れ
は狂にもたれかかる
「な、何…する…の…!」
「こんな状態じゃあビカラとは闘えねぇよなぁ?」
「!」
ニヤッと笑う狂
まさか
そのためだけにキスをしたと言うの?
「き、狂さん…!!あなた一体何を…!!」
『殺す!!』
「きゃああ!!早矢さん!!」
「落ち着けって!」
今にもキレそうなビカラと
すでにキレて今にも襲いかかりそうな早矢
そしてそれを必死に止めるゆやとサスケ
「ビカラ、お前の相手はこのオレだ、さっきの続きをしようじゃねぇか」
こ、この漢は…!!
何度言わせれば気がすむの?
闘うなって言ってるのがどうして分からないの?
「のことになると相変わらずですね」
静かな男の声がした
狂の後ろに髪の長い男の姿
「シンダラ!!」
ドスッ
「自分から近付いてくるとはいい度胸じゃねぇか…そんなに死にたいのか?」
狂は刀をシンダラの体に突き刺す
至近距離で刺されればいくら十二神将と言えども只ではすまない
しかし
「おみごとですが…あいにく私は―…」
シンダラは自分の体に刺さった刀を抜き 狂の頭に手をそっと置く
「狂!!危ない!!」
「こんなものでは私は死なないんですよ」
手から炎が現れ
狂に直撃する
「……っ!!」
側にいたまでもが炎に包まれた
『!!』
「きょ、狂!!さん!!」
ねえ お願いだから
もっと自分を大事にして
もっと自分の体を考えて
これ以上
私を心配させないで
あなたからのキスは
心配するなっていうあなたなりの答えだったのですか?
唇が熱い
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