千の風


   死なせるものか


















                  







 「…」

 「久しぶりね、狂、元気だった?」

 「やっぱりだったんだね〜v」

 「幸村も久しぶり」



  、と呼ばれた少女は手をヒラヒラと振った

  驚くほど整った顔だちに、陶器のように白く透き通った肌

  腰ぐらいまである漆黒の髪はまるで夜の闇のように深い色で、

  その色と同じ漆黒の瞳は、すべてを見透かしてしまう力があるのではないかと思ってしまうほど、意志の強い眼差し、

  唇は紅を差したように紅く、彼女の肌の白さを際立たせているようで、色気を感じてしまう



  まるで日本人形のようだ、とゆやは思った

  そう感じたのは紅虎も同じようで、彼に至っては言葉を失ってしまっているようだった

  

 「ね、綺麗って言ったでしょ?」


 
   ゆやと紅虎の反応を見て、幸村は笑いを堪えながら、そしてまるで自分のことであるかのように自慢げに微笑んだ

  














 「おい、




  狂の低い声が耳の鼓膜を震わした

  久し振りに彼の声を聞くことが嬉しくて、顔が弛んでしまいそうになるのを必死に堪える

  何とか悟られまいと平常を装い、顔を向けると、予想通り、眉間に皺を寄せた狂がこちらを見ていた


 
 「何?」

 「何じゃねえ、何でお前がここにいる?」

 「質問の意味が分かりかねるわ」

 「てめぇが此処にいるワケを聞いてんだ」

 「あら、忘れてしまったの?四年前に狂と約束したでしょう、強くなったらまた一緒に旅をするって、だからここに来たのよ」

 「…誰が強くなっただと?」

 「…師弟で同じ反応をしないで頂戴、私よ、私」

 「…寝言は寝てから言いやがれ」

 「素直に認めたらどうなの?まあ、確かに自分の妹弟子に負けるなんてムカツクわよねぇ」

 「…誰が誰に負けるだと?」

 「狂が、私に」

 「てめぇ…誰に向かって物を言ってんだ?」

 「もちろん、狂に」

 「てめぇ…!」

 「はいはーい、そこまで!んもー二人とも相変わらず仲がいいんだから〜妬いちゃうなぁ」

 「「どこが」」

 「そういう所だよv」

 「「……」」



  仲が良いどころか、呼吸もぴったりだね〜と幸村は声を上げて笑った

  














 「はぁ〜…あの狂はんにあそこまで言えるお人はそういないで」

 「うん…そう、だね」




  ゆやが知っている狂は、邪悪の塊と言ってもいいのかもしれない
 
  人を斬ることに何の躊躇いも持たず、その中に快楽を見い出す彼はまさに鬼と言ってもいい

  その「鬼」が現在まで伝説として語り継がれているのは、やはり、彼に対して恐れ以外にも、畏怖の念が混ざっていたからなのではないだろうか


  
  ――では、その、鬼眼の狂に恐れも見せず、対等に会話を交わす彼女は、一体何者なの?



  自分と一緒にいる時とはまったく雰囲気が違う狂に、ゆやは無意識の内に手を握りしめていた











 「それにしても…本当に京四郎の体なのね」


  は狂をじっと見つめる

  その容姿は彼女の脳内に鮮明に記憶されている男、壬生京四郎そのものの姿であった

  ただ、以前と少し違う点をあげるならば、自分と同じ漆黒の瞳をしていた京四郎の目が、煌々とした紅い色になっているということである

  それが京四郎の身体に狂がいるという証にもなるのだが


 「うるせぇ…じろじろと見るな」

 「ああ、ごめん…から話は聞いてはいたけれど、やっぱりこの目で見るまでは信じられなかったのよ」


  だからこそ、自分の目で確かめたかった、とは言う


 「――本当に、何を考えているんだろうね?京四郎は」
   

  今、目の前に突き付けられた真実に、彼女はただ、俯くことしか出来なかった  
   
 
  の言葉に、狂は胸の奥がざわざわと騒ぎ出し、疼くような感触を感じた

  反応しているのだ、彼女の言葉に、存在に

  何が、と聞くのは愚問でしかない

  アイツの心が乱れているのがはっきりと分かる
 
  朔夜とは違った意味で愛しい存在

  それはアイツとて同じこと

  眠っていても、の気配を感じているのだろうか


  
  狂はチッと舌打ちをした



  自分の中のもう一人の自分が囁きかけるのだ

  ――どうしてがここにいる? と  








 「、」

 「――今はまだ聞かないで」


  まるで狂が言う台詞を分かっていたかのように、は間髪を容れずに答えた


 「――今、言ってしまったら、本当になってしまいそうだから」


  顔は俯いたままで、その表情は伺えない


 「――後で、すべてを話すから」


  ようやく顔を上げたの顔は今にも泣き出しそうな顔で、狂は一瞬ギクリを身体を震わした

  その美麗な顔は一体何が原因で憂いを帯びているのか、狂には分からなかった

  分からなかった、だから、只、彼女の身体を引き寄せて、抱き締めることしか出来なかった




 「――あったかい」

 「……」
 
 「ねえ…狂、さっき狂を見て思ったんだけどね、身体は京四郎でも眼はちゃんと狂の紅い眼なんだね」
 
 「それがどうした…」

 「安心したってことよ、ちゃんと狂は存在してるんだなって」


  抱き締める腕に力がこもった


 「狂はちゃんとここにいるよね?消えたりなんか、しないよね?」

 「…当たり前だろ、俺は消えねぇ」

 「―…うん、信じてる」



  温かい狂の腕に包まれて、は思う

  ――ここが自分の居場所なのだと

 









  死なせるものか

  私が貴方を護る

  










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