千の風


   
  見ないフリをするなんてできない

  そんなことをするくらいならこんな力いらない                          
   
  夢であなたが危険な目にあっていた

  未来は簡単には変えられないって分かっているけれど、それでも私は行動せずにはいられない



  あなたを助けたい

  ただそれだけのために



                  


                 
                 












                    

















 「どうしても行くと言うのですか?」

 「だって狂と約束したんだもの、強くなったらまた一緒に旅をするって」
 
 「………強くってあなたが、ですか?」

 「…何なの、その疑わし気な顔は」

  




  森の奥深くにある家に男女が二人、話をしている

  金髪の青年と黒髪の少女

  月の光に照らされた二人はこの世のものとは思えぬ程美しかった

  特に少女の容姿は驚く程整っている

  腰まである長い黒髪に陶器のように白く透き通った肌

  紅を差したように艶やかで紅い唇

  何もかも見透かしているような、漆黒の瞳

  まるで人形のような少女

  名をという



  
 「何故…今になって家を出る気になったのですか?」

 「え、だから約束をしたと言ってるじゃない」



  
  少しの静寂の後、先に沈黙を破ったのは村正だった

  その青の瞳は明らかに納得できない、と訴えている

  約束、というのは四年前に狂が四聖天の元を去る真際に私としたもの

  このまま別れてしまったら、次にいつ会えるか分からなかった

  そう思うと同時にやるせない気持ちがどっと込み上げてきて、何とも言えないような気持ちになった

  その時の私の顔があまりにも情けなかったのか、狂は唇の端を僅かに上げながら私の頭をポンと叩いてこう言った


  ――お前が強くなったら、また一緒に旅をしてやろう、と



     
  
   
 
 「それで私が納得するとでも?」

 「…思ってない、です」

 「それじゃあ、私が納得できるように話をして下さいね」

 「どうしても?」

 「本当のことを言わないと無理矢理にでも吐かせますよ?」 

 「う、」

    

  見愡れるくらいの笑顔で言う村正に冷や汗が出る

  顔は笑っているけれど目がまったく笑ってはいない
 
  今にも「みずち」を発動しそうな雰囲気である
    
  頭の中で警鐘が鳴り響き、体の血が騒ぎ出すのを感じるのはきっと気のせいなんかではない 
  
        

        
                                                                                                                          

 「さ、、どうしますか?」
  
 「は、話させて頂きます……」
 



    
  そう告げた私に彼は満足そうに笑った

  悔しいとは言わないでおこう

  もし言ってしまったら、貴方はこちらが怒る気も失せてしまうくらいの優しい笑みで微笑むだろうから

   
      

   
    








 「夢を見た、の…」


  二人は場所を庭から縁側に移し、肩を並べながら座った

  どこから鳴いているのだろうか、微かに虫の音が聞こえる

  それ以外は時折吹く風の音しか聞こえなかった

  無音の空気

  静寂の時間

  その空間を撃ち破ったのはの一言だった

  伝える言葉を選んでいるのだろうか、少し端切れが悪い


    
 「…どんな夢ですか?」



  村正ははやる気持ちを必死に押さえながら、の漆黒の髪を優しく撫でる


   
 「狂が、信長と闘う夢」

 「……!」

 「このままじゃ狂が危ない、だから外に出て狂を助けたいって思ったの」

                                                                                      
  
  俯いていた顔を上げ、強い眼差しで前を見るの姿はとても美しかった

  その漆黒の瞳は何を映しているのだろう、何の決意が秘められているのだろう

   
    



 「狂を助けたいの、私には見ないフリなんて出来ないから…」 






  には幼い頃から不思議な力があった

  それは未来を夢で見ることができる、つまり、予知夢を見るという能力である                                    
     

  夢はいつも冷たい硝子を通して見える

  硝子の向こうで見えたものが、これから起きる ”未来”

  決して硝子の向こうには行けない
  
  ただ、見せるだけと言わんばかりの未来のよう

  変えられないのなら、どうして私には見えるのだろう
    
  私の力は無意味なものなのではないかと、何度思ったことか
    
     
                                             





   
 「無意味ではありませんよ」






  そう言いながら村正は優しく私の頬に触れた

  私に触れる手があまりにも温かくて、無意識に涙が出そうになる

  



 「…変態、また心の中を読んだわね」

 「変態、とは失礼ですね…自然と伝わってきたんですよ」


    


  人の心を読む能力「サトリ」、それが村正の能力である

  読むといっても表面的な部分だけで、そこから先の深層部分はまったく分からないらしい

  今の言葉も私の心を読んでの言葉なのだろう

              
                              

 「もう一度言います、あなたの力は無意味ではありませんよ」              



 
  村正は頬に触れていた手を放し、私を引き寄せぎゅっと抱きしめた

  村正の腕が私を温かく包み込む
   
  その温かさがひどく気持ち良かった                                                             

                                                      
                                                        

 「、自分の力に自信を持ちなさい、この力であなたにしか出来ない役割がきっとあるはずです、
  それが分からない内から自分の力を意味の無いものだと決めつけてしまうのは、早すぎると思いませんか?」
  
     

                                                                                                                        
  村正が優しく私の髪を撫る

  まるで子供をあやす母親ように




 「うん…分かってるよ、村正」





  私は自分の手を村正の背中に回し、力を込めた

  もう一度ぬくもりを確かめるように








    

    







 「それじゃあ、そろそろ行くね」

 「狂の居場所は分かってますか?」

 「それは大丈夫、ちゃんと調べてあるから」

 「は?」

 「面倒臭いんだって」
     
 「あの子らしいですね…」   
  


  の顔を思い浮かべたのか、村正はクスクスと笑った                                                   
                                                                        
   

 「それじゃあ…気をつけて」

 「うん村正も」

 「あまり無理はしないで下さいね、何でも一人でやろうとしてはいけませんよ」

 「はーい」

 「それから…」
    
 「もう、そんなに心配しなくても大丈夫よ」





  村正は私に対して過保護な部分がある

  もう、私は子どもではないのだから、いい加減子ども扱いは止めてもらいたい

  そういった意味合いを込めて村正を睨もうとしたけれど、私は言葉を失ってしまった  

  
  ――それは、村正がかつてないほどの真剣な瞳で、私を見ていたから
   















 「…死なないで下さい、また会うときのために」




  

  


  
  
    
    


  







   

  私はその瞳に答えるように不敵に笑った
     
    










 「…当然、今度会う時は狂も一緒よ」

   
    
     










 「楽しみにしていますよ」



     
  そう言って笑った村正の顔はとても優しかった





    
       
    
     






     




  無意味じゃないって言ってくれた村正の言葉が嬉しかった

  未来は簡単には変わらないけれど、私が何か行動することで少しは変わるんじゃないかと思ってる

  だって見ているだけなんて辛すぎるから

  私にしか出来ないこと

  それはほんの少し先の未来が見えること

  この力であなたを助けたい


  そのために












  私は今、あなたに会いに行きます

















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