私、一体どうしちゃったんだろう?


            「私は死神だ」と豪語する彼女に、頭が痛くなった。
 
            そんなこと信じられるかボケェ!と一護が怒鳴ってしまう気持ちが分かる。確かに、自分は一護と同じように物心ついた頃から

            当たり前のようにユウレイというものを目にしてきたけれど、死神というものは一度も見たことはない。

            彼女が死神だ、ときっぱりと断言していても、元々死神というものにあまりいいイメージを持っていないため(例えば正体が黒

            いマントを被った骸骨であるとか、大鎌を携えて、人の魂を奪いにくるとか)いまいち信じることが出来なかった―――が、しかし。

            彼女の姿形に、どうしようもなく懐かしい気持ちになる自分がいて。先ほどから何度も何度も耳にしているソウルソサエティという言葉が、

            やけに頭に残った。朧げな頭で思う―――私は彼らの世界を、知っている?

            「いててててててぇ!」とどうやら彼女の逆鱗に触れたであろう一護が、まるで目に見えない何かに縛られてしまったかのよう

            に動けなくなったのを見て、はようやく自分の意識が飛んでいたことに気が付いた。






            「い、一護!」

            「て…ッてめえ…何しやがった…!」

            「フフ…動けまい!こいつは鬼道と言ってな、死神にしか仕えぬ高尚な呪術だ!」





            完全に身動きがとれなくなってしまい床に倒れ込んだ一護を、彼女は不適な笑みを浮かべながら背中を足で踏み付けた。

            そして糞餓鬼、と彼女は悠然と微笑む。 その有り様はどこからどう見ても。






            「えすえむぷれい…」

            「ゴラァ!!!!勝手なことぬかすんじゃねえ!!!!」

            「だ、だって!その格好はどう見ても…」

            「俺だって好きでこの格好になってるんじゃねえ!!!!」





            一護が怒鳴ったその時、彼女がゆっくりと鞘から刀を抜き出した。

            剥き出しになった刀がキラリと輝き、その刃先の鋭さに、私も一護も背中に冷たい汗がつたう。






            「ちょ…!」

            「一護!!!!!」





            彼女が刀を振り下ろすのと、私の身体が動いたのはほぼ同時だった。

            そして、刀の束の先が、一護に憑いていたユウレイの額に付けられるのと、私が一護の頭をぎゅっと抱きしめ、護るように彼の身体に

            覆い被さったのも。



            「――臆するな、お主の向かう先は地獄ではない、尸魂界だ、地獄と違って気安い処ぞ」



            彼女の言葉に呼応するかのように、光がゆっくりとそのユウレイを包み込む。

            呆気に取られ、彼女が刀を振り下ろしたのは自分たちを傷つけるためではなかったのだと、ようやく理解したときにはもう、

            ユウレイはすでに姿を消していた。後に残ったのは、ニ羽の黒揚羽だけだった。



            「消え、ちゃった…」

            「…ど…どうなったんだ?今の奴…」




            一護の困惑した顔とは打って変わって、ソウルソサエティに送ったのだ、と彼女は涼しげな顔でそう告げた。

            この世には2種類の魂魄がある、ち彼女は更に説明を続けた。一つは『整』と呼ばれる通常の霊 ユウレイと呼ばれるもの。

            そして二つめは『虚』と呼ばれ 生者・死者の別無く襲って魂を喰らう、悪霊と呼ばれるものがあると。



            「我々死神の仕事は二つ、一つは『整』を先の『魂送』で尸魂界へと導くこと、そして二つ目が『虚』を昇華・滅却することだ、
             今回の私の任務はこれにある」



            『虚』、その言葉に何故か背筋が震え上がり、私は一護を抱き締める腕を無意識の内に強めていた。




            「ちょっとまて オマエがその任務でここに来たってことはその『虚』ってのは今この近くにいるってコトか?」

            「そうなるな」

            「バ…ッバカかてめえ!?じゃあこんなトコウロウロしてねぇでさっさとソイツ片付けに行けよ!」

            「イヤ…それが…先程からどういうわけかそいつの気配を全く感じなくなってしまったのだ…」

            「な…何だよソレどういう…」



             可笑しい、とは思った。彼女が『虚』という言葉を口にした時から、何故だか震えが止まらなかった。

             まるで全身の神経が研ぎすまされたかのように感覚。

             ドクン、ドクン、と早鐘する心臓。無意識に何かを感じ取っているのか、体中から汗が噴き上げる。


            「い、いち…ご…」

            「…?」


 
             流石にの様子がおかしいことに気がついたのか、一護が名前を呼んだ―――その時。






             ウオオオオオオオオオオオオオオン




             断末魔の叫び声を思わせるものが耳の鼓膜を震わせて。その声が聴こえたと同時に私の意識は敢然にシャットアウトしてしまった。

             最後に聞いたのは、一護が私の名前を呼ぶ声、だった。









             これがすべての始まり。