壊したくないの。
私は普通の人間ではない。
何を基準にして普通と呼ぶのか、異質と判断するのか、私には分からないけれど、でも、明らかに私は周りの人間とは異なっていた。
鏡に映る自分の顔にそっと触れる。この瞬間が一番嫌いだ、とは思った。思い知らされるのだ。自分が人とは違うという事実を。
突き付けらる度に、この鏡を叩き壊してしまいたい衝動に駆られてしまう。
そっと右目に触れて、自分の姿を真正面から受け止める。触れた右目の指の合間から、アメジストの色が覗いていて、は耐えきれずに
鏡から視線を逸らす。左の瞳は日本人ならば、誰もが持っている漆黒の色。しかし、彼女の右目は人間の遺伝子学上では決して現われない、
深い紫の色を宿していた。物心ついたときからはこの瞳を持っていた。何故?と問いたくても、自分はもう、親と呼べる存在がいない。
それだけでなく、には親戚と呼べる身内ですらいなかった。それは思い過ごしかもしれない、と考えたことはある。
何故なら、自分には5歳以前の記憶がまったくないからだ。不思議なことにそれ以前の記憶はまったく白紙で、思い出そうと懸命に試みても、
薄い靄に包まれているような感覚が邪魔をしてしまう。
はあ、とは溜め息を一つ零して、洗面所に置いてあったカラーコンタクトを一つ手に取った。
これが、自分が異質な存在から一般の人間となる唯一の手段。瞳に装着すれば、私は周りと同じ普通の高校生になるの。
「、そろそろ行かねえと遅刻すんぞ」
コンコン、と控えめにノックされた音がしたのと同時に、ひょっこりと開けられたドアから顔を覗かせたのは、幼馴染みの一護だった。
一護の姿を視界に入れた瞬間に、不思議とさっきまでの暗雲とした気持ちは消え去って、何とも言えない安心感が沸き上った。
自然と頬が緩んでしまう。「ほら、行くぞ」と伸ばされた手をしっかりと掴んで、指先を絡めた。
恋人同士ではない。しかし、単なる幼馴染みという言葉で終わらせることなど出来ない絆が、自分たちにはある。
それは一護だけでなく、彼の家族、黒崎一家の全員に言えること。身寄りのない私を、引き取ってくれたこの家族に対する感謝と信頼が、
そして彼らとの繋がりが、私を救ってくれているのだ。だからこそ、この日常がずっと続けばいいのに、と切に願う。
そして護りたいと思うのだ。私を温かいぬくもりで包んでくれたあなたたちを。
それが脆くとも崩れさるなんて思いも寄らずに。
ただ、願っていた。