ドリーム小説
「ねえ、勘太郎」
「ん?」
「大好きよ」
「!?」
飲んでいたお茶が吹き出しそうになるところを寸前で抑える
ゴクン、と一気に飲み込んだため咽が痛い
口を開いて何か言おうとしたが、言葉よりも先に出たのは咳きであった
「ゲホッゲホッ」
「ちょっと…大丈夫?」
「だ、だって、が」
「私?ただ勘太郎のことが好きと言っただけじゃない」
逆には涼しい顔で勘太郎を見つめている
(それが原因なんだけど)
どうしてこうも簡単に好きと言えるのか
自分の顔は恐らく、耳もとまで真っ赤であろう
顔から火が出そうなほどに熱い
口元を手で隠し、必死に悟られまいと俯いた
頭から冷水を被って熱を冷ましたいと切実に思う
「ど、どうしてまた急に…」
「春華に言われたの」
「春華?」
「そう、勘太郎のことが好きなら好きって本人の目の前で言えって」
(あんの鬼喰い天狗め)
絶対に面白がってやっているという確信があった、ニヤリと笑っている春華の顔が頭に浮かぶ
春華はが自分と同じ黒天狗の血が流れていることから、親近感が湧くのか、彼女をまるで妹のように可愛がっている
もで自分に優しく接する春華にとてもよく懐いている
彼女に接する春華があまりにも柔和な笑顔で微笑んだらしく、ヨ−コちゃんが驚いて自分に知らせに走って来たぐらいだ
(でも、を使って僕をからかおうなんてちょっと許せないかな)
後で鯖でも食べさせてやろうと心に決めた
「言っておくけど、春華は関係ないからね、私が勘太郎本人に好きと言おうと決めたんだから」
勘太郎の考えを読んだのか否か
今、自分が考えていたことがきっぱりと否定されてしまったことに驚いた
「私は勘太郎のことが好きだから好きといっただけよ」
直視できないくらいに真直ぐな瞳で、目を逸らすことができなかった
「勘太郎」
「…」
「大好きよ」
勘太郎の首に腕を回して甘えるようにぎゅっと抱き着きながらは言った
彼女の細い腰を引き寄せ、勘太郎はの艶やかな黒い髪を撫でる
(ああ、そうか)
はこれまで誰とも接することなく生きてきた
そう、極端に言うのならば、無の世界で生活してきたと言ってもいいだろう
闇の中で生きてきた彼女の時間はずっと静止したままだった
しかし、外の世界に飛び出した今、彼女の時間はようやく動き出した
出会った頃に比べてはよく笑うようになったことが何よりの証拠だ
表情が豊かになった、とでも言おうか、豊か過ぎて見ていて飽きないほどに
そして、豊かになったのは表情だけでなく、感情もそうだと勘太郎は思う
まるで子どものように素直で純粋な感情を垣間見ると、動き出した時間は彼女を急速に成長させたのだと実感する
「勘太郎は?」
闇に閉じ込められていたは光を受けるとともに殻を破って外に飛び出した
今の彼女は生まれ立ての赤子同然と言っていいのかもしれない
または、右も左も分からない子どもと言ってもいいだろう、自分の感情に正直な子どもと
だから、しばらくの間は子どものように素直で甘えん坊なが見れるということなのだが、時間は彼女をどう変化させるのだろうか
「…それはもちろん」
面と向かって「好き」と言われることは正直恥ずかしいし、照れくさいことは確かだけども
でも出来れば一生このままでいて欲しいかなと考える自分に苦笑いをした
もしそうならには一生適わないような気がするけども
「大好きに決まってるでしょう」
それもいいかな、と喜びにも似た諦めで、笑ってしまう自分に、また苦笑いをした
君には一生敵わないのだろうと、喜びによく似た諦めで、笑ってしまった