ごめんね。 まもってあげられなくて、ごめん。










「君が・・・そんなんだから・・・大切な宝石まで・・・盗まれちゃうんだよ」
「・・・え!?」

久しぶりに顔を合わせた幸村さんは以前の彼とは違っていた。そう、飄々と天下のために壬生についたと告げたのだ、彼は。信じられない。けれど、私たち全員を抹殺すると躊躇いもなく告げたこと、狂の刀をいとも容易く避けたこと・・・どの姿も以前の幸村さんからはどうしても想像できなかった。一体彼に何があったのだろう?『大切な宝石』まで盗まれてしまった・・・苦々しく呟くその幸村さんのその台詞に、ゆやはを思い出さずにはいられなかった。















・・・』
『私はこれから、歳子とともに鬼眼の狂とその一味を暗殺してくる』
『辰伶の元に辿りつかせはしない・・・!私はあの人を護るために絶対に負けるわけにはいかないのだ・・・!!!!』
・・・・・・』
『もし・・・私に何かあったら・・・・、お前が・・・!!』



どうして彼女は私に頼むのだろう。彼女は一体誰?考えても考えても分からなかった。彼女が言う『辰伶』という人のことも。すべて。分からない。分からない。分からない・・・のに。どうして。


『私は・・・私はなんとしても勝たねばならない!!』


どうして彼女の顔に。声に。言葉に。こんなにも胸が締め付けられるのだろう。彼女の存在すべてに身体が反応している。まるで彼女の感情が私に流れ込んでいるかのように。


『私とて思いは同じ・・・この勝負絶対に勝つ!!!!勝って・・・必ずを連れ戻す!!!」


ドクンと心臓が波打った。ドクン。ドクン。彼の声色を耳にした途端に騒ぐ胸。どうして?分からない、分からない。けれど、自分はこの感情を知っている。苦しいのに。愛しくて。この人に会いたくてたまらなくなって。涙がとめどなく溢れてくるのはきっと。あの時の『ほたる』という少年と同じように、彼のことを見知っているからだ。記憶はないのに。まるで身体が覚えているかのように反応し・・・そして自然と唇が震える。


「―――・・・ア、キ、ラ 」


視界一面に青が広がる・・・・・・この色を私はとても好きだと思った。

















「・・・助けて、あげようか?」

突如目の前に現れた女に、俺は目を見開いた。妖艶な笑みを浮かべたその女は妹のに非常によく似ていて。艶やかな漆黒の髪も。陶器のように白い肌も。紅をさしたかのような紅い唇も・・・・何より似ているのがその漆黒の瞳だ・・・光によっては緑にも碧にも見えるその瞳は先を見据えているようで・・・のそれと酷似していた。

「お前は、一体・・・!!」
「質問しているのはこっちよ」


――― ねえ 助けて欲しい?


女の意図がまったく読めなかった。女の漆黒の瞳からは何も窺えず、戸惑う。しかし・・・女の纏う雰囲気にどこか懐かしい感じを覚えて。だからかもしれない。俺は気がつくと差し出された手をしっかりと掴んでいたのだ。


「・・・まさかともあろうものがここまでやられるとは思わなかったわ」
「あんた・・・一体・・・」
「残念だけど話をしている暇はないの、私に残された時間はあまりにも短すぎる」
「・・・・・・残された、時間?」

身体に巻き付けられていた鎖を外しながら、は女に問う。私がこの世に留まっていられるだけの、時間よ。彼女は朗らかに笑って応えた。この女は死人か?一つの仮説が頭を過るが、すぐにそれを否定した。歳子、歳世がつくり出す死人とこの女はあまりにも気の資質が違い過ぎたからだ。しかし、可笑しなことに彼女からはどうしても生きている人間の匂いがしなかった。

「・・・私のことをあれこれと詮索する前に、貴方は如何にしてを助け出すかを考えなさい」


まるでこちらの考えを読んだかのように、女はにやり、と笑った。


「・・・用心もするさ、相手から生きている気を感じられなきゃ誰だって、な」
「・・・は本当に、気には敏感なのね」



さすが、明来さんの子どもだわ。
何の躊躇いもなく吐き出された言葉は自分の親の名前で、目を見開いた。素早く地面を蹴って間合いを取る。この女、敵か?背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

「・・・止めなさい、今の貴方では私には勝てないわ」
「やってみないと分からないだろう?」
「無理よ、自分の今の状態をよく見てみなさいな・・・瀕死の重症でどうやって戦うつもり?おまけに貴方は今、力が使えないのよ」


現に今、貴方は風の声が聴こえていないでしょう?断定する口調で言う女に、はぎり、と唇を噛んだ。確かに。今の自分には身体から何かがすっぽりと抜け落ちてしまったかのようにそんな感覚に捕われていた。いつもなら心地よい風の音。風が吹けば、人の声も、音も気配も、すべてが耳に入ってくるというのに。今はそれがまったく感じられないのだ。入ってくるのは、『ただの』風の音。風の声が聴こえなくなったとき、それは・・・・・・使い魔の死を意味する。



「・・・大丈夫よ、早矢は死んではいないわ、」


一つの最悪な結論に達した途端に、彼女の凛とした声色がそれを否定した。女が言った言葉の意味が分からず、目を白黒させるの目の前に差し出された手には、銀色の羽が一枚。



「こ、れは・・・!!!!」
「・・・早矢は少しの間、風になっただけ、時間かかかるけれど必ず戻ってくる」




どうして。言葉は声には出なかった。女は柔和な笑顔を浮かべての頭を優しく撫でた。何度も、安心させるように。






「・・・言ったでしょう?助けにきたって、ね」














「・・・」
「・・・ ?どうしました?」
「・・・」
「・・・ ?」

は虚ろな目で空を見上げていた。声をかけても反応はない。その様子に訝しみ、に近付こうとしたその時。一枚の桜の花びらがひらり、と舞い落ちた。無言でそっと差し出すの掌に、誘われるかのように花びらが静かに落ちる。しかし・・・その花びらは手に触れた瞬間に、淡い光を発して解けてしまった。その様子を、ひしぎは目を細めて見やる。

「・・・五曜星の一人が、散ったようですね」
「・・・さ、」
「・・・?」












「 さ、いせ、い   、 」











の口から発せられた言葉に、ひしぎは目を見開いた。これは、一体どういうことか。彼女の感情はすべて封じたはずなのに。今のには喜怒哀楽のすべてが失われているはずなのに。それこそ今のには今迄の記憶すら残っていないというのに。それなのに。一体何故。



「・・・、貴方、泣いているのですか?」




の瞳から大粒の涙が溢れていた。











ごめんね。まもってあげられなくてごめん。きずつけてごめん。
どうしてわたしはあやまっているのかしら。わからない。
でもあなたのことだいすきだった。そんなきがするの。








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