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「くろ、」 「うん?」 ふと名前を呼ばれた気がして後ろを振り返る。しかし、そこに人影はなく。なんだ、空耳だったのかと止めていた足を再び動かそうとしたのだが。もう一度微かに 「くろう、」と聞き慣れた声色が鼓膜を震わせたものだから。それはまるで鈴を鳴らした音のようで、自然と頬が緩んだ。 (ああ、本当に自分は彼女に甘いようだ) きゅ、と掴まれた着物の裾。そこに感じる小さなぬくもり。そこにいるのが誰かなんて考えるまでもなく分かることで。ゆっくりと視線を下ろせば、そこには案の定、自分が思い浮かべた通りの姿がそこにあった。 「桜桃、また来たのか?」 「うん! ね、くろ!」 ん、と桜桃は満面の笑みで両手を突き出した。言われなくても分かる。これは抱き上げろ、という桜桃の合図だ。どうやらこれが桜桃の最近のお気に入りらしく。確かに、弁慶から誰これ構わずに強請っているとということは聞いてはいたが、まさか本当だったとは。(人見知りをしない性格は譲りだろうか) 「くろ!ん、」 催促をするように桜桃が両手をぐっと突き上げてきたものだから、思わずその手を取ろうとしたけれど。脳裏に浮かぶのは 「九郎、桜桃をあんまり甘やかさないでね、」 とにっこりと柔和に微笑むの姿。 しかし、 「くろ・・」 こんなに瞳を潤わせた顔で名前を呼ばれてしまったら、もう。結局押し負けして抱き上げてしまうのは言うまでもないことで。ああ本当に自分は相当、いやかなり、桜桃を甘やかしているのだともう認めざるを得ないではないか。(ああそうなると、もう俺も将臣のことを笑えないな・・・) きらきらひかる |