「―――――・・わたし、元の世界に帰ろうと思うんです、」

静かにそう呟けば、弁慶の瞳に悲壮の色が浮かんだ気がした。見たことのないその色に、少しばかり驚いた。今までの関係を少しでも惜しいと思ってくれているのだろうか。だとしたら、それだけで自分は救われる。貴方と、弁慶と出会えて本当に良かったと、心の底から思える。笑える―――でも、わざと弁慶のそれ気付かないふりをしたのは、そうでもしないと、決心したことが揺らいでしまいそうだったから。


「ねえ、弁慶さん、」


そう、彼は、幸せにならなくてはならない。今まで十分苦しんだ。だからこそ今までの分を補うためにも、彼はこれから幸せを見つけなくては。そのためには、自分が側にいてはいけない。自分が側にいたら、また。


『ねえ、ちゃん、わたしたち、そろそろ、決めなくてはいけないと思うの』


何を、とは聞かなかった。そろそろ決断をしなくてはならないということを、自分でも重々承知していたからだ。白龍の力も元に戻り、源氏と平家の和議も成立した。泰平の世は約束されたのだ。そう、戦はなくなった。もう、この世に遣り残したことなはい、だから。 


だから、ここで終止符を打たなくては、















「わたし、あなたのことを愛していました、」









は、弁慶に深く頭を下げると、ゆっくりと頭を上げた。そのとき、一度だけ彼と視線が交わって、不覚にも胸が高鳴った。ああ、その瞳に、わたしは恋をしたのです。いつから?分からない。気付いたら、自然といつも姿を追っていた。最初は本当に嫌な人だと思ったけれど。それでも、いつも、どんなときも、わたしの側にいてくれた、優しい人。 「  好きでした、 」 その一言で片付けられるほど、自分の気持ちは生半可の気持ちではなかった。  「  さん、 」  弁慶の掠れた声色が鼓膜を震わせた。その先に続く言葉を聞くつもりはない。だから、弁慶の瞳から逃れるように、は方向転換をした。―――――その、はずだったのに。

ぐい、と進むことを妨げるように自分の腕を引かれて、はその場で足を止められた。これ以上、彼の顔を見ていられる自信はないというのに。だって見てしまったら。心に決めたものは揺らいでしまう。それを彼は気付いているはずなのに、本当に、嫌な人、とは思う。けれど、気持ちは正直で、今にも零れ落ちそうになる涙が嫌になった。深く息を一つ吐いて、涙を堪える。そして、再び弁慶の方へ向き直った。

 


「まだなにか・・・、」
 



あるんですか?そう続けようとしたのに。言葉は、最後まで続かなかった。鼻をくすぐったのは馴染みのある匂い。それはわたしの好きな薫香で。たったそれだけなのに、こんなにも胸が苦しくなってしまう自分は、相当重症なのだろうか。




「・・・・・ 言い逃げを、するつもりですか」




僕には、何も言わせてくれないんですか。弁慶は小さく呟くと、を抱く腕の力を更に強めた。放さない。逃がさない。そう言っているようだった。もう、このぬくもりを感じることはないと思っていたのに。早く、早く、抜け出さなければ、戻れなくなってしまう。そう思っているのに、身体は痺れたように動かなかった。




「・・・・・何故、こうして抱きしめていると思っているんですか」




はのろのろと、弁慶の瞳を見上げた。呆れたような、何とも言えない表情を浮かべる弁慶と視線があった。ぎゅ、と繋がれた手。結ばれた手。放れない手。もう二度と放さないと言わんばかりのそれ。温もりがそっと伝わって、胸が苦しくなる。




さん、君を、帰しくないからですよ」




もう、限界だった。一度零れてしまった涙は、止めどなく溢れてきた。そう、まるで涙の海に沈んでしまいそうと錯覚してしまうほど。伝えたい言葉があるのに、声を出そうとしても、口から漏れるのは嗚咽だけ。そんな自分が歯がゆくて歯がゆくてたまらない。




「・・・っ、で、でも、」
「でも?」
「弁慶さん、は。ぜったい、に幸せにならなくちゃ、いけないん、で、す・・・でもわたしと、わたし、といて、も」
「・・・いても?」
「しあわせ、には、ならな・・!」
「馬鹿ですね、誰がそんなことを言いました、」
「・・・っ だっ、て、」
「まったく・・・言葉にしなくても、君ならもう分かってくれていると思っていましたが、」




はっきり言葉にしなくては駄目なようですね。そっと弁慶は壊れ物を扱うかのような仕草での頬をつたう涙を拭った。呆れたような表情から一遍、真摯な瞳で見つめられて。息を呑む。





「君と共にいられることが僕の幸せなんです、だから、・・・―――僕の妻に、なってくれますね?」








愛が降る











ただただ、泣きじゃくりながら頷くことしかできなかったわたしの髪を、貴方はそっと優しく撫でた。 ああ、どうしよう。余韻が耳に残っていて。こびりついてしばらくとれそうににない。











弁慶夢をリクエストしてくれた方へ!リクエストサンキューでした^^^^「きらきらひかる」以前の弁慶とヒロインのお話ということで一回書いてみたかった弁慶のプロポーズのお話にしました。じれったい二人もいいかなと思ったのですが・・・ワタシが書きたかった!(笑)この前後の話も考えたのですがかるーく長編になりそうだったので慌てて軌道修正したお話ですが、気に入って頂ければ幸い!です。「きらきらひかる」が大好きと言って頂けて本当に嬉しい!ワタシの自己満足で始めた話だったので、リクエストがきたときは小躍りしました^^^^弁慶はワタシにとって特別。まったく本当にあんな優男に踊らされているなんて・・!(ぎり)今後も遙かは彼が中心になっていくと思いますが、お付き合い頂ければ幸い^^^^です。いつも読んでくれてありがとうございます!!!これからも頑張ります!!!^^^^リクエストありがとうでしたー!ちゅ!