夜中に目が覚めて、無意識に彼の呼吸を確かめる。隣に彼がいるのが当たり前のようになったのはいつ頃からだろう。自分を腕に抱きしめながら、安らかな寝息をたてている存在をじいっと見やる。安心しきったように眠る彼の顔はまるで子どものようで。眉間に皺を寄せながら執務をこなしている姿からはまったく想像できない、とはふふ、と笑いをかみしめた。何分、何秒。少し泰衡の顔を観察していても全く起きる気配を見せないものだから、そっと胸に耳を当ててみた。とくん、とくん。静かに動く心臓の音は心地よいリズムで、私の心を怖い程穏やかにしてくれる。思わず目をもう一度閉じて、彼との距離をそっと縮めた。自分を包み込む体温にまどろみながら、ああ、あと数時間で夜が明けてしまう、と思った。あと、数時間で泰衡は執務に行かなければならなくて、ああ次にこうして会うのはいつになるだろう、とふと考える。  「ねえ 、わたしにできることは 、ある?」  無意識に口から漏れた言葉は震えを帯びていた。夜が、明けなければいいのに。ふと脳裏に浮かぶ言葉に、こんなに自分は弱気だったのかと少なからず驚いて、自嘲を一つ。そう言えば、少し痩せただろうか。泰衡のそれは以前と比べると少しやつれたような気がして、そっと頬に触れた。プライドの高い彼がここまでするなんて。でも、それが、誰のため、だなんて。考えるまでもなく分かって、涙が出そうになった。  ―――やっぱり、わたしはここにきてはいけなかった? そんな考えを払拭するかのように頭を振って。閉じていた目をゆっくりと開けてみると、御簾の向こうでうっすらと視界に映ったのは朝靄。ああ、日が昇る。もう、起きなくてならない時間だ。名残惜しい、がこのままでは女房に見つかるのは必死。後で冷やかされるのはまっぴらごめん。ゆっくりと泰衡の身体から自分の身体を剥がそうと試みた。―――が、しかし。身体が離れる前に背中に乗っかっていた彼の左手がそれを阻む。驚きながら 「もしかして、起きた?」 と小さく声を発せば 「ああ・・・、」と不機嫌さを帯びた低い声色が耳を震わす。声が掠れて妙に艶めかしい。高鳴る鼓動を悟られないように、「そう、」と素っ気なく返しながらもう一度身体を起こそうとしても、再び泰衡の腕の中に逆戻り。少し顔を上げて、視線を合わせればじいっとこちらを見やる紫水晶の瞳と視線がかち合った。




「・・・ 泰衡、」
「なんだ、」
「あのさ、手、どけて」
「・・・ なぜ?」
「起きれないじゃない、」
「起きなければいい、」
「あのねえ、」
「・・・、」
「なによ、」



「俺は、お前だから、側においているんだ、」




文句はあるまい?   ああ、このヒト。寝ぼけているのかしら。寝起きで自分でも何を言っているか分からないんじゃないかしら。なんて。それでも泰衡の台詞に、さっきまで心を覆っていた不安が消え去って行くのは確かで。ああ、悔しい、だなんて思いながらも、は 「・・・しょうがないから一緒にいてあげるわよ、」と返した。もう一度彼に身体を預けて、そして、目を閉じる。その瞬間に、「 ありがとう、」と小さく呟いた声は、彼の耳に届いただろうか。








まろぶように、想い初め