ドリー夢小説


 「お帰りなさい、さん」

  その笑顔を見て寒気がするのは私だけですか





















                  ただ だけを愛してくれればいい             



             




















 「い、今帰りました…」


  怖い はっきり言って怖い 

  優しく微笑んでいるのに目が笑ってない

  九郎さんなんか顔を青くしながら固まっちゃってるよ…!



 「さん、今朝、僕が言ったことを覚えていますか?」

 「え、ええと…」

 「ふふ、僕はちゃんと言いましたよね?今日一日は邸で大人しくしているようにと」



  ええ 確かに聞きましたとも


  ”白き力 ”を持つ存在故 気の流れを受けやすく 

  体調も壊しやすいは 今朝から顔が青白く元気がなかった

  そのため 薬師でもある弁慶は今日一日 邸で静養するようにと言い付けた

    
  しかし


  それを大人しく聞き入れるでなく

  弁慶が薬草を取りに行っている間にこっそりと邸を抜け出し 望美達と合流してしまった



 「薬湯を持って部屋に入ったら君の姿が見えなくて、心臓が止まるかと思いましたよ」



  弁慶が怒る気持ちは分かる

  でも望美の側にいなければという気持ちの方が勝ってしまったのだ


 
 「僕がどれだけ心配したか、君は分かりますか?」



  俯いていた顔を上げて弁慶さんを見れば真直ぐな瞳で私を見ていた
   
  その瞳は憂いの色を見せていて

  ああ本気で心配していたのだと罪悪感を覚える程で

  私は不覚にも言葉を失ってしまった



 「べ、弁慶さん!あまりちゃんを責めないであげて下さい」


  望美が私を庇うように弁慶さんの間に割って入った


 「望美さん、」

 「確かに…邸を勝手に抜け出したことに関してはちゃんがいけないと思います、
  でも、それは私のためを思って行動したこと、なんです…だから」

 「に悪気はないんだ、許してやったらどうだ?弁慶」


  望美を援護するように九郎さんも話に入ってきた

  ああ、二人が神様に見える


 
 「…まったく、二人ともさんには甘いんだから」



  溜め息をつきながら静かに瞳を伏せた弁慶

  それはお前もだろ と九郎は口に出しそうだったが必死に押えた

  もし言ってしまったら後で何をされるか分からないから

 

 「…分かりました、今日のところは大目にみましょう、その代わり今度こんなことをしたら…さん」

 「は、はい…!肝に命じておきます」 

  
  は顔を引きつった笑みをしながら答えた

  にっこりと優しい笑みで問われたら肯定をしないわけにはいかないだろう

  ああ それでもこれで難は去った気がする

  後で望美と九郎さんに御礼をしなきゃなあ とうっすっらと思った



  そう思っていたのに




 「それよりも弁慶、が怨霊と戦って腕に怪我をしてるんだ、早く治療をしてやってくれないか?」


 
  この一言で再び状況は悪くなることになる






 「怪我…?」

  
  弁慶の瞳が一瞬で鋭くなる

  その瞳が凍てつくような気配を生んだのも気のせいではないだろう

  「やばい」と言葉を漏らしたと同時に望美と目が合った

  どうやら彼女もこの尋常でない雰囲気に気付いたらしい
  
  気付いていないのはきっと言った本人だけ

  お礼しなきゃなーと考えた私が馬鹿だった

  只でさえ私が勝手に邸を出たことに怒っているのに

  その上怪我までしてきたなんてことを知ったらあの人は何をするか分からない

  それぐらい分かって下さいよ 九郎さん!

  もう後でつるし首決定ですね 将臣にも手伝ってもらおう




 「さん、怪我を、しているのですか?」

 「あ、はい…怨霊と戦ったときにちょっと、あまり深くはないんですけど」

 「……」

 「九郎さんの背中ががら空きで、そこを狙った怨霊から庇おうとしたら怪我しちゃって」

 「九郎…?」

 「え!?俺か!?」



  本当は嘘

  これはただ怨霊の攻撃を防げなかった私の不注意で出来た傷

  九郎さんは全然悪くない でも怪我をしたことを暴露したことの責任は取ってもらわないと


 
 「九郎は後で僕の部屋に来て下さいね?話がありますから」

 「ちょ、ちょっと待て!弁慶!誤解だ!」

 「九郎さん、頑張って下さいね」

 「!お前も訂正したらどうなんだ!?」

 
  嫌です そう言おうとする前に身体がふわっと浮く感じがした

  気が付けば目の前には弁慶の整った顔がある

  恥ずかしくて目を逸らしてしまう程 間近に


 
 「ええと、弁慶さん」

 「はい、何ですか?さん」

 「一応聞きますが、この体制はなんでしょう」

 「君が怪我をしているらしいので僕が部屋まで運んで行こうとしている体制ですが」

 「別に抱き上げなくてもいいでしょう!そんなに酷い怪我じゃないんですから!」

 「ふふ、無理は禁物ですよ?」

 「無理なんかしてません!」



  そう言い合っている内に弁慶の足はどんどん進み ふと気が付けばすでに部屋の前にいた


 
 「ああ、もう、降ろして下さい!」

 「はいはい」


  弁慶はクスクスと笑いながらを降ろす

  降ろされたと同時に私は弁慶さんから顔を逸らした

  恐らく私の頬は真っ赤に紅潮してしまっているだろう

  きっと私の反応を見て楽しんでる 絶対にそうに違いない 
   
  悔しい気持ちと恥ずかしい気持ち

  そして何故か嬉しい気持ちが交差する

  どうしてだろう



 「ほら、さん、拗ねないで腕を見せて下さい」

 「―…はい」



  袖を捲って傷口を見せる

  その上を弁慶の白い指が優しく撫でた

  くすぐったくて少し体が震える



 「良かった…あまり深い傷ではなさそうですね」

 「…そうですか?」

 「ええ、これくらいの傷なら…綺麗に跡も消えると、思います…」

 「…弁慶さん?」



  急に語尾が小さくなっていった彼を不思議に思って顔を覗こうとしたら

  一瞬痛い程の力をこめられて 私はその痛みに眉をひそめる間もなく

  気が付けば冷たい床の上につけられていた

  目の前には微笑んでいる弁慶の顔 

  抵抗しようにも手がしかっりと固定されてしまって動かない 

  体も遠慮なく覆い被さっている

  身動きが とれない



 「…っ」

 「…今日一日、僕はあなたの姿が見えなくて気が狂いそうだった」
 


  耳もとのすぐ側で聞こえる甘い言の葉に体が痺れる

  どうしよう 頭がぼうっとしてしまって何も考えられない



 「それなのに、君は僕ではない他の誰かのところにいた…そしてその身を犠牲にしてまでも
  彼を護り通していた」



  押さえられている腕が痛い

  あれは嘘だったと言いたいのに 言葉が出てこない




 「妬けるな…」



 
  その言葉に目を見開いたと同時に感じた唇の熱さ



 「…っ、ふ…」



  求めるように何度も角度を変えるくちづけに軽く目眩が起きる

  息苦しい

  でも

  嫌じゃない  



 「べんけ…」

 「…そんな瞳で見るなんて、僕を煽るつもりですか」



  その表情はいつもの穏やかな弁慶じゃなかった

  いつもと違う「彼」に心臓が高鳴る


 
 「今日一日…ずっと僕を心配させたんです、責任…取ってくれますよね?」   



  そう言って弁慶は顔を首に埋める

  首にぴりっという熱を感じた
  









  そのとき




 「姉さんが怪我をしただって!?」



  邸中に響き渡る声を出した弟の声に弁慶の動きが止まった 




 「譲…?」

 「…時間切れ、ですか」



  小さく呟いた言葉は溜め息と共に消えた

  ゆっくりと体を起こせば潤んだ瞳でこちらを見ていると目が合う

  ああ また僕を煽らせるつもりですか

  そう思いながらも弁慶はゆっくりとの腕を引いた

  されるままにの体が起き上がる   

  未だに焦点の合わない彼女に薄く笑い 耳もとに唇を近付ける




 「続きは、また今度」




  その言葉に弾けるようには立ち上がり顔を真っ赤にさせながら部屋を出て行ってしまった

  そんな彼女を見て苦笑いをしてしまう 




 「譲君の声が聞こえなかったら、少しまずかったかな…」

 
  自嘲にも似た声は彼女のいない部屋によく響いた
  


  唇の感触 

  肌の感触

  もう一度味わいたいと思う自分がいる

  彼女を欲している自分が いた
    
  














 「どうしよう…!」


  真っ赤な頬に手を当てながらは廊下でうずくまっていた

  どうしよう

  これから どんな顔で弁慶さんに会えばいいのだろう

  はっきり言って嫌じゃなかった

  このままでいたいとさえ思った

  私 は彼を 欲していたのだろうか







 「まいったなぁ…」




  唇が熱い

  肌が熱い

  首が熱い

  心が 熱い


  熱はそう簡単におさまりそうにない

  首に付けられた刻印も 消えそうにない

  














 「あ、怪我の手当てしてもらってないや…」





















  廊下でうずくまっているを見つけた譲がその首に紅い跡がついているのを見つけて

  大騒ぎになるのは今から数刻後のお話














 (時が止まれば良かったのに)