「・・・・ ん ?」


 
つい先刻ここに置いたはずの外套がなくなっていた。おかしい・・ちらりと縁側に目を向けてみるとそこには今朝干したばかりの洗濯物が気持ち良さそうに風に揺られていて。   まさか 、 という感情が頭を過ったが、そこに探し求めていたものはなく、少なからずほっとした。この光景はもう我が家では当たり前のものになっているが。彼女の兄弟である将臣くんや譲くんからしたら、天と地がひっくり返るほど、有り得ない光景らしい。(・・・ そこまで?) しかし、最初の頃は危なっかしい手つきでやっていた彼女も、今では料理洗濯掃除が趣味と言えるほどの腕になった。その中で、どうやら彼女の近頃のお気に入りは洗濯なようで。(・・・ 明らかに景時の影響によるものだろう )(・・・ 景時め、 )2日に1回は彼女の趣味に僕の外套が巻き込まれている。( おかげで若干 縮んだような気がする 、 )それでも、あえて口には出さないのは。 あんなに楽しそうにしているさんを、ずっと見ていたいからに決まっているでしょう?(それ以外になにか?)



さん入りますよ」



外套は彼女は持ち去ったのだろうと予想して。 さんがいるであろう部屋に声を一つ。しかし、いつもの元気な返事がなく。ここにはいないのかな、とゆっくり襖を開けてみると。そこには、何か黒い布に頬を寄せて、幸せそうに眠るさんの姿。 (あれ、桜桃は?)(ああ、確か確か将臣くんが散歩に連れて行ったんだった、)起こさないように。音を立てないようにゆっくりと近付いてみると、そこには見慣れた、今まで自分が探していたものがそこにあった。



「おやまあ、」



こんなところに。と呆れにも似た溜め息を一つ。彼女がどういう理由で部屋に持ち帰ったのかは分からないけれど、大切そうに握りしめられているそれを見たら、腹の底から言葉では言い表せないような、どす黒い感情が沸々混み上がってきた。ただの外套に妬ましい、と思うなんて。(夫婦になったというのに、ね)綿菓子のようにふっくらとした、柔らかそうな頬に触れると、触れた指をぎゅっと握られて。思わず笑みが浮かぶ。 「べんけい、さ」  紡がれた名前に頬が緩む。夢の中でも僕の名を呼んでいるのか。そんな彼女が溜まらなく愛おしくて。そっと柔らかな蒼髪を撫でた。夫婦になって数年。焦がれていた彼女がやっと自分だけのものになったというのに。このまま外套に包んでしまって、誰にも見られないように隠してしまったら。自分だけにできたら、なんて。そんな邪な思いを抱いてしまう僕は、なんて浅はかなんだろう。



「・・・ 、 さん」
「・・・・」
さん、起きて下さい」
「・・・・ 、ん 」
さん・・・早く起きないと・・・襲ってしまいますよ?」
「・・・・!!!?」
「ふふ、おはようございます、さん」
「・・・ あ、れ、べんけいさん?どうしてここに・・・?」
「ちょっと探しものを、 ・・・それにしてもよく眠っていましたね」
「ああ、えっと外套が綻んでたので繕ろおうかと思ったんだけど・・・ついうとうとしちゃって、」
「・・・・、」
「・・・え、怒って、る?」
「そうだと言ったら?」
「え、どうして!?」
「だってさん、」



君を抱きしめて眠るのは僕だけの特権でしょう。 なんて、耳許に唇を寄せて呟けば、まるで血が通いすぎてしまったかのように真っ赤な顔になった彼女。その照れた様子も可愛くて、思わず抱き寄せた。日向で寝ていたせいか、暖かな日だまりの匂いが鼻をくすぐって。思わずその柔らかな頬にキスを一つすれば、びくり、と震える細い肩に、自然と頬が緩む。




「ちょっ、もうすぐ桜桃が帰ってくる・・!」
「聞こえません、」
「っ ! 弁慶さん、 !」
「・・・ ねえ、さん、」





たまには夫婦の時間を楽しみましょう?  外套を頭上から被せるように広げれば。それはもう大人の時間の始まり。








きらきらひかる









「あー・・・タイミング悪かったかー・・・」
「むぅ?」
「あーごめんなー桜桃、もうちっと外で遊んでくるぞー!」
「 ? 」