|
「信じられない、」 「うん、」 「一体どうしてこんなことに、」 「うん、」 「予定日まであと一週間だというのに、」 「うん、」 「まったく頼朝公も九郎も、一体何を考えているのでしょう、」 「うん、」 「もしさんの出産に立ち会えなかったらどうしてくれるんですか、」 「え、立ち会うつもりだったの?」 「もちろんです、」 ぎゅう、と抱き締める腕の力が強まった気がした。けれど、ちょうど今月が臨月で、そして出産まであと一週間と迫ってきていることから、いつもより弁慶の抱き締める腕があまりにも優しくて。それが何だかには照れくさくて思わず俯いた。 ああ、もう本当に信じられない。 弁慶は溜め息を吐きながらの首筋にそっと顔を埋める。はあ、と零した吐息が首にかかって、はくすぐったくて、身をよじった。 信じられない。 もう一度弁慶はぼそり、と低く呟いた。その様子にいつもの余裕がまったく感じられなくて、思わず笑ってしまったのは仕方のないこと。 「そんなこと言ったって、仕方ないでしょ?」 お仕事なんだから。はふふ、と朗らかに笑いながら弁慶の癖のある髪をくしゃりと撫でた。そう、仕方のないことなのだ。鎌倉にいる頼朝公から「来い」と呼び出しがかかれば無視できないことぐらい充分に分かりきっている。分かっているのだ。しかし、何故妻が臨月を迎えるこの月なのだ。どうしようもない苛立ちが沸々と込み上げてきて弁慶はもう一度、はあ、と溜め息を吐いた。 「・・・さん、もし子どもが生まれるような事態になった場合には例え何があろうと戻ってきますから」 「はいはい、分かりました」 釈然としない気持ちを抱えながら、じゃあいってきます、と一言。弁慶はの頬をするりと優しく撫でて。そしてその後にそっとのお腹に手を当てれば、早く行ってこいと言わんばかりに、とくん、と手が波打った。それに苦笑いをしながら、ようやく弁慶はの抱きしめた腕を放したのだ。 「・・・鎌倉に着くまでに一体弁慶に何を言われるか・・・」 「・・・よろしくね、九郎さん・・・」 きらきらひかる そして弁慶が鎌倉に旅立った次の日。 まるで狙ったかのようなタイミングで、の陣痛が始まることになる。 |