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「少し、昔話をしましょうか」 「さあ九郎さん、説明してもらいましょうか」 「だから、あれは・・・後白河院の目を背けるためにしようがなくやったことであって、だな」 「問答無用です、きっちりと説明してもらいますからね」 まるで蛇に睨まれた蛙のように身を縮ませている九郎と、反対に鬼の形相で九郎を睨んでいる少女。その異様な風景に弁慶はただ、ふと笑みを漏らした。事の始まりは九郎の一言から。雨乞いの儀式で望美の舞をいたく気に入った後白河院は、彼女を自分の白拍子とするべく甘美な言の葉を囁いた。が、しかし、返事に困っている望美を見兼ねた九郎は彼女の腰を自分の方へと引き寄せ、こう宣言したのだ・・・「彼女は俺の許嫁です」と。その言葉に納得をしたのか、渋々と後白河院は引き下がったけれども、九郎の言葉に、納得をしなかった人間が、たった一人。 「・・・九郎さん、許嫁ってどういうことですか」 「っ!?」 九郎を睨むの目は完全に据わっていて。端正な顔だちをしている彼女だからこそ、その表情には充分な迫力があり、九郎は顔を引きつらせた。 「私、そんな話、初めて聞きましたけど・・・?」 「あ、いや、その」 「いつの間にそんな仲になっていたんですか、あなた方は」 「、話を聞いてくれ・・・!」 「望美は私の親友でもあり、妹みたいな存在です、その私に断りもなく許嫁ですか」 九郎の言葉に耳をまったく貸さない。望美は二人をおろおろしとしながら交互に見比べていて、譲は困ったような表情は浮かべていた。しかし、止める気配がまったく見られないのは、もしかすると、自分が思っていることを姉がすべて肩代わりしているからなのかもしれない。 「さあ九郎さん、説明してもらいましょうか」 「だから、あれは、後白河院の目を背けるためにしょうがなくやったことであって、だな」 「問答無用です、きっちりと説明してもらいますからね」 そして冒頭の台詞に戻る。源氏の軍を担う大将が一人の少女に押されている。その様子は端から見れば面白いもので、弁慶は一人、微笑んだ。 「・・・なあ、ヤバいんじゃねぇの」 ヒノエにコツンと脇腹を小突かれて。弁慶は声には出さずに、目で問うと、彼は顎で前を見ろと促した。 言われるがままに目を前方へと向けてみれば 口元を扇で隠しながら何かを言い合っている貴族の姿。彼らの視線の先には、九郎と未だ言い合っている、彼女の姿があって。 ああ、成程。とひとり弁慶は納得する。 只でさえ、九郎との喧噪で一目を引いているというのに。彼女の容姿が更に拍車を掛けているようだ。青い髪 、青い瞳はまるで海のように深い色で。肌の色は陶器のように白い。整い過ぎた、顔。その姿は言わば見目麗しき、至上の姫。彼らを引き付けるには充分すぎる。 「どうする?」 「そうですね・・・では、こうしましょうか」 柔らかな笑みを浮かべてに近付く弁慶を、ヒノエは怪訝な顔で見送った。 「別に許嫁じゃなくてもいいでしょう!」 「ああ言うしか思い付かなかったんだ!そうでなければあの狸に連れていかれてたぞ!?」 「私がそうさせるわけないじゃないでしょう!?法皇だからって容赦はしませんよ!」 「お、お前な…!!」 「はい、二人ともそこまでですすよ」 後ろからに近付き、己の法衣でそっと彼女を包む。視界が急に暗くなったため、は「きゃあっ」と小さく悲鳴を上げた。九郎は弁慶の突然の行動に目を丸くする。 「九郎、あなたは儀式の後片付けがあるでしょう、戻らなくてよいのですか?」 「弁慶さん!?離して下さい!」 必死に弁慶から離れようとするであったが、抱き締めるその腕は力を増すばかりで。ついには逃がすまいと、腰まで抱き寄せられる。 「九郎、聞いていますか?」 「え?ああ、そうだな・・・」 「九郎さん!話はまだ終わっていませんよ!」 「弁慶、後は頼む」 「承知しました」 「九郎さん!?あぁもう!弁慶さんのせいで逃げられちゃったじゃないですか!」 「・・・・・・・・・」 「・・・弁慶さん?」 何も語ろうとしない弁慶を不振に思い、法衣の中からそっと窺うと、どんな表情かは暗くて分からなかったが、弁慶は只じっと前を見据えていた。そのあまりにも真剣な眼差しに、は言おうとしていた文句を飲み込んだ。 「・・・さん」 「え、あ、何ですか」 「少し僕の戯れに付き合って頂けますか?」 「・・・は?」 弁慶はそう言うやいなや、後ろからの首筋にそっと顔を埋めた。 「・・・っ!?ちょっと・・!」 「静かに、後白河院の側にいる貴族共がこちらを見ていることに気付きませんか」 「え・・・」 視界が開け、言われるがままに前方に視線を向けると、確かにこちらを凝視している貴族の姿。扇を口元にあててこそこそと話をする人もいれば、扇を落としたことに気付かないまま 固まっている人も、いる・・・・・・なんだ、この状況は。 「君は見目麗しき姫君ですからね、彼らはいかにして貴方を手に入れようか考えているのですよ」 「んな、」 「望美さんの二の舞いになりたくないでしょう?」 だから、少しじっとしていて下さいね。甘い声色。甘い吐息で囁かれて。の耳はみるみると赤くなっていく。その様子に、弁慶はふっと笑みを漏らした。彼女は自分のモノだと見せつければ、いい。本当のことを言えば九郎のように公の場で公言してしまいたかったのだけれど。でも、顔を真っ赤にさせながらこの状態に耐えている彼女を見てしまったら。何だか可笑しくなってきてしまったから。だから、惜しいけれど、しばらくはこの状態でいてもらおう、と弁慶は再度、の首筋に顔を埋めた。 きらきらひかる 「・・・そんなこともありましたね、」 「もしあそこで公言していれば、害虫は今よりも減っていたのでしょうか・・」 「え、害虫?」 「ああ、さんは知らなくていいことですよ」 「?」 |