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「敦盛の笛の音を聞くとね、すごく心が安らぐの」 彼女が自分のことを、敦盛、と呼ぶようになったのはいつのことだっただろう。それは突然に、しかし、自然と。自分の聞き間違いだろうかと、柔らかな微笑みを浮かべた横顔をじっと見やれば、こちらの視線に気が付いたのか、ぱちり、と目が合った。その瞬間に、彼女は堪えきれなかったように声を上げて笑い出す。余程まぬけな顔をしていたのだろうか。目尻にうっすらと涙を浮かべながら、何て顔をしているの、と彼女は目を細めて、笑う。 「……、殿」 「うん?」 「今、私の――……名を、」 聡い彼女のことだ。すぐに私の言いたいことに気付いたようで。大きな瞳をくりくりと動かしながら、もう一度、敦盛、とただ一言、私の名を呼んだ。そして一つ息を吐いて。 「……気を、悪くした?」 「いや、そんなことは…」 「だって私たち、もう長い付き合いでしょ?」 いつまでも、敦盛さん、と呼んでいるなんて、何だか他人行儀で悲しいじゃない。だって私たち、もう家族も同然でしょ?縁側に座る私と殿に太陽の温かい光が落ちる。光を浴びて彼女の自慢の蒼い髪がきらきらと輝いて。そしてあまりにも優しい微笑みを浮かべるその姿は、まるで天上界に住まう天女を錯角させるかのように美しかった。温かかった。とても、とても。ねえ、敦盛、と彼女は言う。 「住む家は違ってしまうけれど、敦盛は大事な家族だから、いつでも遊びにきて」 歓迎するわ、と彼女は微笑んだ。側にいるだけで、こんなにも安らいで。そしてこんなにも心が温かくなる。ああ、彼女のような人が我が一門にもいれば、もしかしたら、血で染まることはなかったのではないか、と思わずにはいられない。私には眩しすぎる存在。触れてよいのかと躊躇してしまう。けれど、私に向けるその微笑みがあまりにも優しいから、だから私は貴女を心の底から愛しいと思うのだ。 きらきらひかる あれから数カ月。私は暇を見つけては彼女の家に足しげく通っている。それが日課となった。変わらない日 常。唯一変わったことと言えば、私が彼女のことを、と呼ぶようになったことと、彼女のお腹がふっくらと丸くなったことだ。 「ねえ敦盛、もう一回」 「…よく飽きないな、」 「だって、敦盛の笛の音を聞くとね、心が安らぐの」 この子も、敦盛の笛の音が好きみたいなの。ふふ、とはにかんで、は笑う。私は諦めにも似た笑みを浮かべて、それならば、と再び笛に口を付ける。 これも変わらぬ日常。 |