ドリーム小説

 


  暇つぶしとして街で適当な女に声を懸けてその反応を楽しむよりも、彼らの会話を聴いている方が飽きないということに

  ヒノエは最近になって気が付いた。



 「あれ、弁慶さん何処かへお出かけですか?」

 「ええ、ちょっと五条大橋まで出かけようと思いまして」

 「あ、じゃあ私も行きます!久しぶりに子ども達と遊びたい気分ですし」




  はい!と手を上げて同行を申し出るに、弁慶は「仕方のない人ですね」と困ったように笑ったかと思えば、彼の目が

  すっと細められ、ひどく優しげな眼差しでを見ていたものだから満更でもないということがよく分かった。

  ああ、そう言えばよく弁慶は五条河原に薬を届けに行ってるんだったか、とヒノエは一人納得をする。そして同時に笑いが

  込み上げてきて、ヒノエはくくっ、と声を立てないように笑ったのだった。以前、弁慶がを連れて河原に行った時に、

  どうやら彼女は弁慶の妻と間違えられて大変恥ずかしい思いをしたらしい、ということを顔を真っ赤に紅潮させた彼女自身

  から直接聴いたことがある。それは間違いもするだろう、とヒノエは思った。それは彼らのあのやり取りを見ていれば誰で

  も。中睦まじそうにしている二人を見れば、誰もが彼らは友達以上、恋人以上なのだと考えるだろう。



 「何の薬を届けに行く予定なんですか?」

 「今日はドクダミを煎じた塗り薬を持って行こうかと思っているんです」

 「ああ――…この間弁慶さんの部屋を片付けていたときに発見したあのドクダミですか…」

 「ふふ、丁度切らして採りに行かなければと思っていた矢先だったので、さんのお陰でその手間が省けました」

 「いつもきちんと整理整頓をしておけば無駄足を踏むことはないのに」

 「そのつもりですが…段々と物が増えてきているのでそうもいかないんですよ」

 「――弁慶さんって、意外と片付けとか苦手ですよね…」

 「そうですね…言われてみれば思い当たる節がありますが――特に問題はないでしょう」

 「…一体その自信はどこから…」

 「だって何度でもさんが片付けてくれるでしょう?……僕の為に」




  ね?と柔和な笑顔で微笑み、さも当然のことのように言う弁慶にはぽかんと口を開けてしまう。そして弁慶の台詞を頭

  が理解したかと思えば、まるで金魚のように口をぱくぱくと動かし、顔が血が通いすぎてしまったかのように真っ赤になっ

  てしまった。目尻にはうっすらと涙が浮かんでいる。そんな表情で――しかも上目遣いで弁慶を睨んでも逆効果だろうとヒ

  ノエは思いながら溜め息を一つ。





 「おや、何処に行かれるのですか?」

 「――…っ弁慶さんには関係ありませんっ」

 「関係あります、今日届けに行く予定のヨモギの草が何処にあるか分からないんです――さんに片付けをして頂いたのは

  とても助かったのですが…どこに何があるのか分からなくなってしまって」

 「………」

 「だから、君がいないと困るんです――…一緒に梶原邸に来て頂けますか?」

 「…ぅ…」
 
 「お願いします、さん」

 「――〜〜〜〜〜…ああもう!!何処に何があるかちゃんと覚えておいて下さいよ!自分の部屋でしょう!」

 「お手数おかけします――…ふふ」
 
 「…何が可笑しいんですか」

 「何だか僕がさんに頼りっぱなしだなあ、と思いまして」

 「そう思うなら、これからは私物で部屋が一杯になる前に自分で整理して頂きたいものです」

 「それはどうでしょう?」

 「弁慶さんっ!!!」

















 「…ヒノエ、そんなところで震えながら何笑ってんだ?」

 「…っは、いや、本当にあの二人は見ていて飽きないと思って、ね…!友達以上、恋人以上、夫婦未満なあの二人!」

 「友達以上、恋人以上、夫婦未満、なんじゃそら」
 

  ああ、恋人未満だったかな?と至極可笑しそうに笑うヒノエに将臣は首を傾げるばかりで。 
 

 「でも普通、男の部屋に何処に何があるかなんて分かるのは、伴侶以外考えられないと思うけれどね?」

 
  はあ?と頭の上に疑問符を浮かべる将臣の背後の、じれったい二人の会話に耳を傾けながら、ヒノエは悠然と微笑んだのだった。
 
 
  
 




  

何かが始まろうとする音が聴こえる
 (彼らに幸あれ!)