ドリーム小説
もし、俺が
「ヒノエ君?」
「え?ああ、何だい、姫君」
どうやら考え事をしていたらしく、目の前で大きな青の瞳を自分に向けている少女が、上目遣いでこちらを見ていることに気付かなかった
さらり、と彼女の瞳と同じ色の髪が肩から流れるように落ちる度に甘い薫りが鼻をくすぐり、目を細める
誘ってるの?と言いたいところだけども、そんなことを口に出してしまったら彼女の逆鱗に触れてしまいそうだから、ただ、微笑むだけにした
「何か考え事をしているの?」
「…そう、どうやったら、は俺のことだけを考えるようになってくれるか、をね」
「嘘よ」
「本気のつもりだけど?」
「…嘘よ、だって」
――ヒノエ君、今にも泣きそうな顔をしているから
紡がれた言葉はヒノエの少し茶色がかかった赤の瞳を見開かせるには充分な程の威力を持っていた
「泣きそう?俺が?」
思ってもいないことを口に出されて、不意を突かれたように心臓がドクリドクリと音を立てて鳴る
「そう、一体何がヒノエ君をそこまで追いつめているの?」
はヒノエの頬に白い指先で触れて、呆れたように苦笑いをした
(ああ、もう、お前にはありのままの俺を演じていたかったのに、常に余裕のある俺でいたかったのに)
静かに目を瞑って、俯く
どうやら彼女に指摘されるぐらいに、自分は、もう、己の感情を抑えることができないみたいで
「…ねえ、」
いつも饒舌ね、とお前に呆れられていたこの口は、今は掠れた声色しか出せなくて、途切れ途切れに言葉を紡ぐことしか出来なかった
「もし、俺が」
例えば、とか、もし、といった不確かな曖昧な未来を指す言葉は嫌いだけども
「――お前を元の世界へ帰さないって言ったら、どうする?」
俺の中で狂気という名の感情がお前に牙を向く前に、どうか、お前の涙で俺を縛り付けて
狂おしいほど愛しいから
(羽衣を奪われた天女は帰れないって知っている?)