ドリーム小説


 「、泣いてもいいんだ」


  九郎の意志の強さが伺える橙の瞳があまりにも自分を真剣に映すものだから、は困惑した


 「どうして、私が泣かなければならない、の?」



  意味が分からないわ、とは笑った

  しかし、その姿はとても痛々しくて、今にもすっと消えてしまいそうなほどに弱々しくて、九郎は眉を顰める

  こんな細い身体ですべてを背負い込んで、誰にも弱音を吐かず、心の内に溜め込んでいるのだろうか、彼女は

  頼ってもいいのに、泣き言を言ってもいいのに、決してそうしないのは、彼女を取り巻く環境がそうさせてしまったのだと九郎は思う

  を包む柔らかな雰囲気がとても居心地がよくて、自分は彼女に甘えずぎてしまっていたのかもしれない、頼り過ぎていたのかもしれない





  ――彼女の内から涙を消してしまったのは自分かもしれないと、九郎は思った






 「九郎、さん?」


  無我夢中でを引き寄せてその華奢な身体を抱き締める



 「泣いて、いいんだ、

 「くろう、さ」

 「今此所には俺しかいない、俺しか見ていないから」



  月の光に当てられ、普段よりも輝きが増したの艶やかな青の髪を優しく何度も何度も撫でる

  抱きしめられたことで呆然と立ち尽くしていたの腕が徐々に震えてゆくのが分かった

  覚束ない動作で自分の背に腕を回すが、とても、愛おしかった



 「…っ…ぁ…」

 「……

 

  自分の胸に顔を押し付けて、静かに声を上げて泣く

  誰にも悟られぬように、抱き締める腕に力を込めた

  他の八葉にも、 源氏にも平家にも、さざめく木々にも、哭く風にも、煌々と光る星にも、その星を堪えた夜空にも


  ――自分以外の何者も見られることはないように



 「先せ…せんせい……」

 「――、」

 「…っ…もどってきて…ぅ…っ」



  初めて聞く彼女の泣き声が静かに静かに澄んだ夜空へと溶けてゆき、泣き声は徐々に大きくなり空気を振動させた

  完璧な人間などいるわけがないのに、強さに惹き付けられて彼女の脆弱な部分を見逃していた自分に腹が立った

  許してくれと何度心で思っても、自分はどうやって彼女を癒せばいいのか分からなかった

  分からなかった、でも、今、自分が唯一できることは彼女をこの腕の中で留めておくだけ、彼女の、涙を掬うだけ、

  明日になったら、また、いつもの柔和な笑顔で支えてくれるお前に戻るようにと、

  ―― だから、

  






  ――ああ、愛しい人よ、どうか、今宵だけは、僕のこの胸でお泣きなさい












  
 にはこうすることしかできないから  


  

 (福原で先生が帰って来なかった夜)