ドリー夢小説

  
  一度貴女に聞いてみたかった


 「何故、貴女は戦われるのか、星の姫」


  その瞳にあらんかぎりの信頼を湛え、貴女は何を思い、剣を握るのか。


 「神子殿のような力があるわけでもない貴女が何故、戦場に出て命を懸ける?」


  剣の握り方も、人の肉や骨を断つ感触も、噎せ返る血の匂いも、何も知らずに生きてきた子娘が、何故戦場を舞う?


 「貴女がそうまでして戦う意味は何か」


  星の姫は戦姫には成り得ぬ。

  姫が身に備えている力は「白き力」と聞き及んでいる。

  それは敵味方に関係なく、側にいるだけで相手の力を増幅させてしまう力。  

  敵味方に関係なく、源氏であれ平家であれ、人であれ怨霊であれ。

  自らが動くことなく、すべてを完結させてしまう、力。


 「答えて頂きたい、星の姫」


  さあ、お聞かせ願おうか。

  私の瞳に映る貴女が、異端から正統に変化するきっかけを。







 「私が私であることを、それでは理由になりませぬか、泰衡殿」


  さも当然であるかのように、彼女は言い、そして笑った。


 「――意味が分かりかねるのだが」

 「あまり深く考え込まないで下さいませ、そのままの、言葉の意味でございますから」

 「では、そのままの意味で受け取るとしよう――…私には、姫は私的のために戦場に出ているように聞こえるのだが?」

 「そう受け取って構いません」


  
  意外、その二文字の言葉しか思い浮かばなかった

  彼女が剣を携え、大の男達に怯まず立ち向かう理由は、「龍神の神子」を護るためという、八葉と同じ使命が、

  彼女に流れる星の血がそうさせているのだと、そう考えていたのは確か。

  

 「確かに、望美を護るため、ということも理由の一つですけども」

 「――姫は人の心を詠む力をお持ちか」

 「まさか、泰衡殿のお顔にそう書いてありますわ」

 「……」

 「ああ、怒らないで下さい」


  クスクスと、鈴の音を鳴らしたかのような笑い声が、彼女の口から漏れた。



 「――話の続きを」

 「ふふ、はい」

 
  奥州藤原氏の総領、次期当主にもなる藤原泰衡ともあろう者が、一人の少女に踊らされているようだ。



 「――騒ぐのです」

 「――騒ぐ?」

 「はい、私に流れる星の血が騒ぎ、そして囁くのです…――龍神の神子を護れと」

  
  泰衡は静かに眉間に皺を寄せた。

  彼女の血が騒ぐ、ということは当然のことであるように思うからだ、彼女の、祖先を考えれば。

  古より星の一族は龍神の神子に仕え、神子が不在時には龍神の宝玉を守り続けるという。

  彼女の主とも呼べる、神子が選ばれた今、長き眠りについていた星の血が騒ぐのは当たり前のことではないだろうか。


 「それが如何した」

 「…頭のどこかで、こう思うことは義務であるからと誰かが囁くのです、私は確かに望美を護りたい、でもそこに私の意志はないように感じられるのです」


  ――私が剣を握るのは、私に流れる血がそうさせているのではないかと、そう、思ってしまうのです


  今、自分の目の前にいるのは本当にあの戦を駆け抜ける彼女であるのかと、自問してしまう程に、泰衡の目には弱々しく映った。

  戦と言う名を知らぬ、野を駆け、花を摘み、可憐に笑うような、普通の少女であるかのように。


 「…いつか、私が私でなくなってしまうようで恐いのです、だから、そうなる前に、私が私である時に、親友として、星の血は関係なく、
  一人の友人として、望美を護るために戦おうと思うのです」
 
 「……」

 「証明をしたいのです、私は私の意志で神子を護っているのだということを、私が私であるということを」

 「……」

 「――皆の、信頼を裏切ってしまうかもしれないと、思っていても」


  そう言っては自分自身に嘲笑をした。

  こんなにも弱く、頼りない彼女を未だかつて見たことがあるだろうか、と泰衡は思う。

  誰が知るだろうか。彼女が内に秘めている思いを。

  誰にも言わず、頼らず、苦悩して、涙を呑んでいることなど、誰が知ろう。
  
  数多の人物から慕われ、全幅の信頼を湛えた瞳が密かに涙に濡れていることなど、誰が知ろう。

  それは親友であると言う、神子殿ですら知らないこと。




 「――ふ、」

 「…泰衡殿?」



  自然と笑いが込み上げてきた。

  皆は知らず、自分だけが知る彼女。



 「――面白い」





  ――悪くないと、思った。





 


 「実に貴女らしい答えだ、姫」

 「え…?」


 

  見届けたくなった。

  血に抗い、自らを証明する様を、示す様を。

  この目でしっかりと、見ていたくなった。  





 「貴女がその瞳に何を見い出すか、楽しみだ」

 「…泰衡殿?あの、言っている意味が分かりませんわ」


  首を傾げると、青い髪がサラサラと音をたてて肩を滑る。

 
 「――そうだな、姫、貴女が私に堅苦しい言葉遣いなどしなければ、教えてもいいが」

 「はい?」

 「貴女は私の配下でも何でもない、そのような口調で話されては調子が狂う」

 「…それは、望美のように泰衡さん、とお呼びしても?」

 「構わぬ」

 「…それを言うのでしたら泰衡殿、私からもお願いが」

 「何か」

 「私のことを姫と呼ばないで下さい、調子が狂います」
 
 
  顔を顰めて言うと、泰衡は瞳を細め、唇で弧を描いた



 「殿、と?」

 「殿をつけなくてもいいのだけど…まあ、百歩譲ってそれで」








  全幅の信頼を湛えた瞳は、これから何を見い出すのか。




  











  全 幅 の  頼 を 湛 え た 瞳





 (泰衡に姫って呼ばせたかったの…!)