ドリー夢小説

 


「雨が降るね…」

  
 そっと呟いた声は誰の耳にも届かなかった、だから、誰も気付かなかった

 しかし言葉を発したと同時に彼女が自分の肩に手をやり、眉を潜めたことに気付いた男は、いた






 「さ、傷を見せて下さい」

 「大丈夫って言ったのに」

 「そんな嘘が僕に通用するとでも?」

 「…思いません」

 「ふふ、素直な君はとても可愛らしいですね」

 


  柔らかく微笑み、甘美な言の葉を囁く弁慶はいつもと変わっていないように見えた

  けれども、彼の目はその雰囲気とはまったく異なり、少しも笑ってはいなかった

  その視線の先には、今し方、自分が解いた彼女の包帯で巻かれていたモノに注がれている


  ――生々しく残る、傷跡



  彼女の陶器のような白い肌に醜く残るそれ

  自分は彼女のすぐ側にいたというのに、守り通せることができなかった

  まるで自分の罪を見せつけられているかのような錯角に陥り、弁慶は目を逸らす




 「すみません…」

 「え?」

 「君のすぐ近くにいておきながら、その傷が付けられるのを僕は阻止することができなかった」

 「…弁慶さんが謝ることじゃありません、助けに入ろうとしたあなた方を止めたのは私なんですから、自業自得です」

 「しかし、」

 「弁慶さん」

 



  顔を上げると、は自分の肩をぎゅっと握りしめて、俯いていた

  青金石の色によく似た髪は、さらりと彼女の細い肩を流れ、地に堕ちる

  そのお陰で顔を見ることはできなかった、けれど

  



 「私は自分の傷なんて、どうでもいいんです」





  ――泣いているように見え、た





 「自分の痛みのことなど、どうでもいいんです…!」



  爪が白くなるほど、傷が付けられた肩を強く強く握りしめる彼女が思いを馳せるのは、



 「あの人が今までに受けた痛みに比べたら、こんなものっ…!」



  ただ一人




  ――じゃあ、な





  の瞳からぽたり、ぽたりと滴る雫

  それが彼女の彼を思う証であるのだと、弁慶はうっすらと頭で思った




 「…さん」




    
  どんなに、自分が、貴女のその肩の痛みや心の痛みを癒そうとしても、貴女は自分の痛みすら厭わないほど、彼を思うのですね

  ――ならば、僕も、






  この胸に宿る痛みなど構わずに、貴女の涙を拭いたい  














  自 分 の  み な ど 構 い は し な い 












 (見えない痛みの方が深い傷を負ってるんだ、ヒロインは彼に対して、そして弁慶は彼女に対して)