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辛かった。もう嫌だった。逃げ出したかった。やめてしまいたかった。 何を? それはきっと生きていくこと。前に進むこと。何かに期待すること。もう、何かを望むことに疲れてしまった。紋章を外す。不老不死の自分が、苦しみから逃れるためにはそれしか選択肢がないのだと思った。それが 死 を意味することであっても。確かな安らぎを手に入れられるのであれば、それで良かったのに。 「 必ず、また会えるから 」 遠い記憶の中で誰かが囁いた。それは自分の記憶なのか、それとも紋章の記憶なのかは、分からない。けれど、その声が自分を救ってくれるのではないかと錯覚に陥ってしまうのは。自分が心のどこかで 生きたい と願っているからなのだろうか。 「テッド、」 自分を呼ぶ柔らかな声色が鼓膜をくすぐる。と、同時に自分は寝ていたのだということに気付いた。何か夢を見ていたような気がするが、思い出せない。ぼやけた視界はあまりにも頼りない。重たい頭をおこせば、「風邪を引いちゃうよ、」という台詞と、からから、と窓を閉めるような音がした。息を一つ吐いてから顔を上げると、心配そうにこちらを見やる漆黒の瞳をぱちり、と目が合う。 「・・・・ オレ、もしかして寝てた?」 「うん、よく寝てた」 「どれぐらい、」 「ほんの十分くらいかな、・・・珍しいね、テッドが無防備に寝るなんて」 いいものを見ちゃった。ふわり、と柔和にが微笑む。間近で見た彼女の笑う顔は自分が思っていた以上に綺麗で。頬が一瞬で熱を持った気がした。果てしない時間を経て、時間をもてあますことに慣れたつもりだった。しかし、一人でいることが当たり前になってしまってから、どうも人が大勢いるところは慣れない。別に寂しい、なんて思わないけれど。こうして自分の隣に誰かがいて。笑って。話しかけてくれる。それが、こんなにも心地よいと思うなんて。 「ふふ、眠そうな顔、」 髪を撫でる手つきがあまりにも優しく。完全に目が覚めていないからなのか、その手を振り払うことができない。それは億劫だからか。それとも、逆の。 「テッド、もう少しおやすみ、」 このまどろみがひどく心地よいと思っている自分がいるのは確かで。 「そばに、いるよ」 もう少しこのまま生きていてもいいかな、なんて思う自分がいて。そんな自分自身にひどく驚いたけれど。 「、」 「・・・ 大丈夫、ここに、いるよ、」 「・・・ うん、」 それもいいかもしれないと思った。 繋がれた指先が、愛おしい。 うごめく鼓動はなにを告げる、 それはきっと。まだ芽生えはじめたばかりの、感情。 |