「アスアドさん、」
「何ですか、リウ殿」
「あのー、先に言っておきますけど・・・オレ、事の成りゆきによっちゃあ王サマのこと殴っちゃうかもしれないんで」
「・・・大丈夫です、俺もですから」

あははははは。お互いにっこりと微笑み合う。しかし、そのどちらも目がまったく笑っておらず。朗らかな雰囲気とは裏腹に、彼らの足は今までにないくらいに速く、皇宮を駆け抜ける。それもそのはず。彼らの大事な大事な姫君たちが、今まさに自分以外の男の毒牙にかかろうとしているのだから。落ち着いていられるはずがない。リウはチッと舌打ちを一つ。が自分以外の男に触られる?考えただけでも吐き気がした。初めてを目にしたときの皇帝の顔を思い浮かべる。目の色が変わったあの瞬間。まるで品定めをするようなねっとりとした目線でを見やり。あいつが口元に笑みを浮かべたとき、目には色情が宿っているように感じた。あの目を思い出しただけで怒りが込み上げる。あんのエロオヤジ!!もしに手を出してたら・・・。


「コロス!」
「右に同じく!」


スピードアップ!しかし、慌ただしい自分たちとは反対に奥の院に繋がる通路は、皇宮の入り口とは違ってしんと静まり返っていた。皇帝が人払いでもさせているのだろうか。その不自然なまでの静けさに焦りが募る。リウ、とオレの名前を呼ぶ声が聴こえた気がした。気のせいなんかじゃない。聴こえる。オレの名前を呼ぶの声が。もっと!もっと速く!速く!


「・・・リウ殿!!!ここです!!!!!」


アスアドさんが大きな音を立ててドアを蹴破った。視界が開けたその先には・・・目を疑うような光景が飛び込んできた。「・・リウ殿!」クロデキルさんの焦ったような声色が耳を震わして。彼女は近衛兵に後ろから手を縛られていて、身動きができない状態だった。彼女ほどの力量があれば、こんな男など一撃だというのに。そう、しなかったのは。いや、できなかったのは。


「・・・リウ!」


寝台で皇帝に組み敷かれているの姿が、そこに。


「おっまえ・・・!!!!ふざけんな!!!!!!」


目の前が一瞬真っ赤になって、 無意識に身体が動いた。ぎゅっと拳を握りしめて渾身の力を込めて皇帝を殴りつける。ガタガターン!派手な音を立てて皇帝は寝台から転げ落ちる。人を殴るなんて生まれて始めての経験だった。ズキズキと痛む手がそれを教えてくれる。しかし、相手が国の皇帝だろうがなんだろうが。今はそんなこと関係なかった。ただ、許せない。その気持ちだけが自分を動かしていた。


「ふっざけんなよ・・・!!!!に触れていいのはオレだけだっつーの!」


本心だった。自分だって、まだ、触れていないその身体。自分よりも先に味合わせてなるものか!「・・・リウ、」掠れた声に、伸ばされた腕。震えているの身体を乱暴に抱き上げて、部屋を飛び出した。ただただ、ひたすらに走った。自分の首にそっと回された腕。まだ微かに震えているのに気が付いて抱き締める腕に力を込める。



「・・・リウ、やっぱり来てくれたんだ」
「当たり前でしょ!?あああああもうあんのエロオヤジ・・!」
「ふふ、でもリウがもうあと数秒遅かったら、私がやってたかも、」
「・・・それはそれでオレの出番がなくて困る、」


すぐ助けに向かえなかった苛立ち。もどかしさ。それらが全部、を抱きしめた途端に吹っ飛んだ。今はただ安心感だけが胸にある。何度も確かめるように、強く抱きしめて。それを味わいたくて。そんな場合じゃないってことは分かっているけど、走っていた足を止めてしまった。



、」
「ん?」
「無事で、本当に、良かった」
「うん、」
「アイツがに手を出してたら、」
「うん、」
「止められても、オレが殺してたかも」
「リウが?無理でしょ、」
ちゃんそこは嘘でものって!」
「あはは!ごめんごめん・・・でも、ね、リウ、」
「ん?」
「本当はね、怖くて怖くて仕方なかったんだよ、」
「・・・うん、」
「リウ以外の人に触られるのがね、我慢出来なかった」
「・・・それは、オレも同じ、」
「・・・うん、だから、ね、リウ、今、すごくしたいの」
「・・・何を?」
「・・・キスよ、」








全身で、をした。

(たった少しでも離れた時間を埋めるように)





キスを奪い合った。