初めまして










頭がずきずきと痛い。もう、ミューラ−さんってば照れ屋さんなんだから、とリヒャルトは頬を綻ばせる。何てことない。ただ、ミューラ−さんの後ろ姿が目に入ったから、後ろから飛びついただけ。だって、王子様のお供して一緒に付いていったから(僕は嫌だって言ったのに!)数時間振りに会えたことに(僕にとっては死活問題)嬉しくていてもたってもいられなくなっちゃったんだもの。仕方ないよね。でも、いくら恥ずかしいからってやっぱり金棒で頭を思いきり叩くのは痛いなあ。これもミューラ−さんの愛情だって分かってるから我慢できるんだけど。こうも毎日医務室に通っているとそろそろシルヴァ先生に呆られるかなあと、リヒャルトはへらり、と笑いを一つして、医務室へ続く扉を開けた。


「すいませーん、シルヴァせんせーいますかー?」
「申し訳ありません。先生なら今席を外していまして…用件なら私が伺いますが」


てっきりシルヴァ先生お約束の呆れた声が聴こえると思ったら、まったく違う、鈴を鳴らしたような、可愛い声色に一瞬僕の思考は停止した。それは戦場に身を置いている立場であるがゆえに、自分には縁のないものだと思っていたもの。そう、これは女の子の声だ。慌てて、医務室内をよく目を凝らして見てみると、部屋の奥に置かれた机に女の子がぽつんと座っている。「どうされました?」という質問に対して反射的に「あたまが、」と応えると(だって痛いんだもん)、その女の子は「痛いんですか?」と眉を顰めながらこちらに近付いてきた。「大丈夫ですか?」とそっと頬に触れる手はひどく温かかくて。まるで遠い昔に忘れてきてしまった、人のぬくもりに僕は酔いしれるかのように、思わず目を閉じた。そっと離れた温もりを噛み締めるように目をゆっくりと開けたら、そこには。まるでファレナの大河のように青い瞳と目が合って。さらさらと流れる、この国では珍しい黒髪に目を奪われて。数秒の間の後。ごく自然に僕の口から紡がれたものは。君の名前を尋ねる言葉だった。













「僕、リヒャルトって言うんだけど、よければ君の名前を教えて?」






    



驚いたように、けれどどこか可笑しそうに「です」そう微笑んだ彼女に、僕は何だか嬉しくなった。