分かってはいるんだけど


 「ミューラ−さーん、見てるー?」


  剣をくるくると器用に回しながら、あどけなさが残る顔に満面の笑みを浮かべてリヒャルトは言う

  本当にミューラ−が好きなんだな、とは苦笑いし、そして自分の隣にいる彼の恋人を見た

  彼女、は慣れているのか苦笑いをしながらリヒャルトを見守っている

  けれど、彼を映す瞳が僅かに悲しみの色に染まっていたことに気が付かないではなく


 「…?」

 「えっ?あ、はい、何ですか?王子」


  ぼうっとしていてすみません、と笑うの顔はいつもと同じもの

  一瞬見えた悲哀の色などまったくなかったが、それがかえって不自然であり痛々しくもあっては眉を顰めた


 「…僕だったら絶対にを悲しませたりしないのにな」


  無意識の内に出た言葉に自分で驚きながらも、はゆっくりとの頬に触れた

  形のよい赤い唇を親指でそっと撫でる、触れてみたいと思いながらゆっくりと

  
 「王、子…?」

 「僕だったら絶対にを幸せにする自信はあるよ」


  見る者を魅惑させるような、まるで魔力を持っているかのようなの青色の瞳はの行動を止めるには充分だった

  段々と頬が赤く染まるのを愛しそうに見ながら、は次に紡ごうとしている言の葉を頭に思い浮かべる

  ――ねえ、僕のものになってしまいなよ、と
   
  
 「いくら王子様でもに触るのは許せないなぁ」

  
  突如聞こえたのは柔らかな声に似合わない非難の台詞

  の行動を阻止するかのように腕を掴むのは相変わらず笑顔のリヒャルトであった

  

 「…リヒャルトには関係ないんじゃない?」

 「関係大アリだよ、だっては僕のだもん」
 
 「へぇ、それを君が言うの?」


  がどんなに不安がっているのか分かって言っている?

  の台詞に初めてリヒャルトの笑顔が崩れた

  反対には王族に相応しい微笑みを浮かべたままで


 「あんまりを悲しませてばかりいると…僕が貰っちゃうからね」


  やんわりと自分の手を掴んでいるリヒャルトの腕を解いては言う

  笑顔を浮かべたまま、しかし、それには似合わない言葉、宣戦布告とも言えるようなものをさらりと述べて

  その言葉の意味を理解し、口元を押さえて真っ赤になったを満足そうに見ながら、は自分を待つリオンの元へと戻っていく

  王子!と慌てて追い掛けようとしたをリヒャルトは素早く掴み、自分の元へと引き寄せた

  背中越しに抱きしめ、身動きがとれないほどに、強く強く


 「リヒャルト…?」

 「、僕はね、ミューラ−さんがこの世で一番大切なんだ」

 「…うん、分かってる、よ?」


  リヒャルトがミューラ−に依存しているのは彼の過去を考えれば分かること

  しかし、頭では理解していても、心が理解していないことをは充分に分かっていた

  自分にこんな醜い感情があったなんて、と唇を噛み締めるのも稀ではなくて

 
 「でもね」


  抱きしめる腕の力が強くなり


 「誰よりも護りたいと思うのは、愛しいと思うのはだけなんだ」 


  信じてくれる?といつもの彼に似合わない弱気な声で告げられ苦笑いを一つして

  それも知ってる、とはリヒャルトの方に振り向いて、自分から彼にキスを送った

  不安なことは確か、けれども、少し前まで心を覆っていた不安がリヒャルトの言葉一つでこんなにもなくなるのは


  それほど彼のことを愛しているから





  

蝉が雪に焦がれるように








 「…?」
 
 「でもね、もうちょっと構って欲しいな〜なんて思ってるわけです」

 「!もうっ!ってばかーわーいーいー!大好きっ」